中村晃「そこが代打の難しさ」 昨季との明確な差…2年目で掴み始めた一振りの“真髄”

代打で決勝適時打を放った中村晃【写真:古川剛伊】
代打で決勝適時打を放った中村晃【写真:古川剛伊】

小久保監督も絶賛「あそこしかない」

 悩み、もがきながらも積み重ねた経験は確実に結果へとつながっている。「代打の難しさはありますね」。ヒーローとなった中村晃外野手は真剣な表情で汗を拭った。

 20日の西武戦(みずほPayPayドーム)、先発の上沢直之投手が同点の7回に1死満塁を迎えたが、2者連続三振を奪い、雄叫びを上げた。絶体絶命のピンチをしのいだ直後の攻撃、安打と犠打で1死二塁と好機を作ると、小久保裕紀監督は「代打・中村」を告げた。

 右腕・山田との対戦。3球目のフォークを右中間に運び、これが決勝打となった。「ストライクゾーンに来た球をしっかりと打てました。上沢のピッチングを見ながら僕も準備していましたし、ああいう場面を抑えたらチャンスがくるんじゃないかなと予想していました」。静かに喜びを噛み締めたベテランに対し、小久保監督も「あそこしかないというところで打ってくれた。去年の経験が生きています」と目を細めた。

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 代打としての役割を期待されて、2年目の今季。どのように“去年の経験”を消化しているのか。そこには明確な差と、中村自身の成長が見えた。

昨年と比較して「今年の方がある」という要素とは?

「打席数が多いので、“打席感”という意味では今年の方がありますね。代打だと1打席1球で終わってしまうこともあるじゃないですか。スタメンでいくにしても、代打でいくにしても、間隔が空いていないことが自分の中で大きいです」

 投手の“生きた球”を見ることができるのは、バッターボックスだけ。どれだけ慣れ親しんでいるとはいえ照明や球筋、重圧など試合でしか感じられない要素は多く存在する。「やっぱり全然違いますよ。球が速く見えたりだとか、そういうところよりは、自分がどう見えているのかも立ってみないとわからないから。そこが代打の難しさですよね」と具体的に語った。

 昨年8月は背中の痛みで登録抹消された影響もあり、月間でわずか10打席に終わった。今季は2月の春季キャンプ中に小久保監督から「代打1本」を告げられたが、主力選手の離脱が相次いだことでスタメン出場を重ねてきた。月別で見ると、5月に98打席を消化。今月も4試合でスタメン起用されて21打席に立つなど、感覚を失うことなく投手との対戦に集中できている。

タイムリーを放つ中村晃【写真:古川剛伊】
タイムリーを放つ中村晃【写真:古川剛伊】

調整方法にも変化「球筋を見ておく」

 近藤健介外野手が指名打者の際は、山川穂高内野手が一塁を守る。ベンチスタートが増えてきた中、調整方法にも変化が生まれた。投手の映像を流し、球種や球速、回転数などを正確に再現する打撃マシン「トラジェクトアーク」と向き合う時間が多くなった。「7月くらいからですかね。“対戦”して球筋を見ておくというのはやっていました。(試合出場がない時は)やっぱり練習からなんとかしていかないといけないので」。

 この日でいえば、準備を始めたのは6回だった。グラウンド整備の後、バットを手に室内練習場へと向かった。「今年はもうミラールームには行かずに、投げてもらって打っています。上沢がピンチの時も裏から見ていました」。7回にチャンスがくれば、代打でいくことは首脳陣から告げられていたという。まさにイメージ通りに自分の出番がやってきた。

 代打として今季は9打数3安打。最高の形で期待に応えてみせた。チームメートが一塁ベンチから飛び出してくる。難しさもある一方、たった一振りで試合を決められるのは代打ならではの喜びだ。「何よりも勝ったことがよかったです」。勝利の味を噛み締めて、中村晃は静かに笑った。

(竹村岳 / Gaku Takemura)