天王山の裏でノックの雨…松本晴が“不名誉”とともに手にした確信「本当にすごいなと」

左腕が振り返った「あの試合」…68年ぶりのワースト記録も

 天王山の熱気に包まれた本拠地のグラウンドで、黙々と打球を追った。2位日本ハムを相手にスイープを決めた9~11日の3連戦。熾烈な戦いが繰り広げられた裏で、試合前練習中にノックを受け続ける松本晴投手の姿があった。

「あの試合の翌日から、ずっとやっています」。中田賢一1軍投手コーチから放たれる無数の打球。懸命にグラブを伸ばす左腕の表情に、悲壮感はない。「守備が良い人は、自分で自分を助けられる。できた方が、楽なピッチングができる」。地道な練習の反復が、投手として階段を上がるために必要不可欠であることは理解している。

 松本晴が「あの試合」と口にしたのは、前回登板となった7日のロッテ戦(ZOZOマリンスタジアム)だった。5回1失点(自責0)の内容で今季5勝目を挙げたが、投手としては68年ぶりとなるプロ野球ワーストの1試合3失策を記録した試合だった。守備の重要性を改めて認識した一方で、こう口にした。「正直、本当にすごいなと自分でも思いました」――。左腕がつかんだ確かな手ごたえについて迫った。

“悪癖”が出たのは3回2死一塁の場面だった。寺地を直球で押し込むと、勢いのない打球が自身のもとに飛んできた。完全に打ち取った形だったが、左腕の反応は一瞬遅れた。投げた勢いのまま体が反転してしまうクセが原因で打球を捕球し損なうと、一塁へのグラブトスも浮いてしまい、ワンプレーで2つのエラーが記録された。

 さらに4回にも自身の一塁ベースカバーが遅れ、左腕に3つ目のエラーが付いた。「もったいないエラーで先制点を与えてしまったので。本当に反省しないといけないです」。深く反省したうえで、これまで続けてきた取り組みが間違いではないことにも気付いた。

「ミス」があったからこそ気付いた訓練の“成果”

 3回の失策直後、池田に適時二塁打を浴びて先制を許したが、5回まで最少失点に食い止めた。「普通なら崩れるんです。でも、その後の切り替えはメンタル要素が強くなる。そこで、去年からずっと練習してきた“マインドセット”が生きて、自動的に『ダメになっても引きずらない』というピッチングができたんです」。

 当時の松本晴の考えは、こうだ。「完全に自分のミス。だけど、もう終わってしまったこと。反省は試合が終わってから。今やるべきことは、目の前のバッターを抑えること。次の打者、次の1球、とにかく1つアウトを取ることにフォーカスする感じです」。

 パニックに陥りかねない状況下でも、マウンド上でいち早く対処すべき課題を浮き彫りにして集中する。学んできたメンタルの「技術」が、実戦の場で身を助ける武器になったことを実感していた。

 再三ピンチを背負いながら、5回を1失点にまとめ、5勝目を手にした。それでも当然、納得はしていない。「あんなミスがなければ、もっとイニングを重ねていける。それが短くなってしまったのは、自分のミスのせいです」。試合中盤でマウンドを降りなければいけなかった悔しさをかみしめた。

 今なお、し烈な先発ローテーション争いは繰り広げられている。リーグ連覇に向けて貴重な1軍マウンドは、生き残りをかけた“ステージ”そのものだ。ヒリヒリとした空気の中で積み重ねる1球1球は、投手として何物にも代えがたい経験となる。発展途上の左腕にとって、確かな成長へとつながるはずだ。

(鷹フル編集部)