冗談から始まった一塁挑戦…笹川吉康に火がついた理由 記事で知った小久保監督の“ゲキ”

笹川吉康【写真:古川剛伊】
笹川吉康【写真:古川剛伊】

「あの辺から状態がグンと…」

 5月26日の2軍降格から2か月――。小久保裕紀監督からの“ゲキ”が大きな転機となった。未来の主砲候補として大きな期待を背負う笹川吉康外野手が、虎視眈々と1軍昇格を見据えている。

 指揮官の言葉は7月15日のロッテ戦。今季育成から支配下登録を勝ち取った山本恵大外野手が、プロ初本塁打を放った試合後だった。

 山本を称えながら、「若い選手が結果を残せばチームの底上げになります。笹川も、うかうかしていられませんね」と、あえて2軍にいる笹川の名前を挙げた。それは他ならぬ指揮官が期待を込めたメッセージ。背番号44は、この言葉をどう受け止めたのか――。

ポジティブに捉えられる2人の“関係性”

「自分でもうかうかしていられないと思っているんですけど、小久保監督から言われることによって、さらに自覚が強まりました。意識がまたもう1段階ギアが入るというか。小久保監督もそれがわかって言ってくれているんだろうなと思います」

 指揮官のメッセージを記事で知った笹川は、率直に「そうだな、と思いました」と振り返る。突き放されたのではなく「待ってくれている」という期待の裏返しだと捉え、燻っていた心に火がついた。「その辺から状態がグンと上がってきています」と語るように、ポジティブな思考はすぐに結果として表れ始めた。笹川の中で何かが明確に変わった瞬間だった。

 降格以降、最大の課題として向き合ってきたのが変化球への対応だ。2軍戦でも、得意とする直球を投じられることは少ない。「前はカーブに反応もしていなかった」という状態だったが、今では確かな手応えもつかんでいる。「最近は変化球もヒットにできていて、名古屋(中日戦)でもピッチャーの全球種を打ちました。少しずつ変化球への対応はできていると思う」。凛々しく前を向く表情に、自信がにじむ。

初球の変化球を振りに行く笹川【写真:飯田航平】
初球の変化球を振りに行く笹川【写真:飯田航平】

まさかの一塁挑戦…「外野から圧を」

 その意欲は、新たな挑戦からも見て取れる。練習では一塁の守備にも就くことも増えた。そこにも笹川らしい負けん気があった。「ここは結構冗談半分なんですけど」と、いたずらっぽく笑いながら、こう続けた。

「最近って内野手が外野に来るじゃないですか。外野ばっかり攻められているんで『外野からも内野に圧をかけちゃおっかな』って言って、練習日のシートノックでファーストに入ったんです」

一塁の練習をする笹川吉康【写真:飯田航平】
一塁の練習をする笹川吉康【写真:飯田航平】

 冗談から始まった挑戦だが、その根底には出場機会を求める強い思いがある。松山秀明2軍監督からは「いけるやん」と言われるほどの動きを見せる。「(守備位置の)9分の4を守れたら、試合に出られる確率も上がるので。できて悪いことはないと思ってトライしています」。外野だけでなく内野も守れれば、活躍の場は確実に広がる。

 小久保監督からの“ゲキ”を力に変え、打撃に磨きをかけ、新たな挑戦も続ける。「いつ呼ばれてもいい準備はしています」。再び1軍の舞台に立つその日に向けて――。若き大砲の目は誰よりもギラついている。

(飯田航平 / Kohei Iida)