記録樹立も淡々「あくまでも1軍で投げるのがプロ野球」
わずか“数十センチ”の差に、左腕のあくなき向上心が見えた。29日のウエスタン・くふうハヤテ戦。本拠地みずほPayPayドームで行われた一戦に先発した前田悠伍投手が格の違いを見せつけた。4回を投げて2安打2奪三振無失点と快投。連続無失点は41回2/3まで伸び、弱冠19歳が同リーグの新記録を樹立した。
「素直にうれしいですけど、あくまでも1軍で投げることが目標というか、それがプロ野球なので」。表情を緩めることなく、きっぱりと言い切った左腕。これだけの成績が出ていても、成長するためなら変化をいとわない――。その自覚はセットポジションでの姿に見て取れた。
「変えたのはここ最近ですね。軸足に(体重が)乗りやすいのと、始動しやすい。今のフォームにしっくり来ているのが、この形なので。また変わるかもしれないですし、現段階で合ってるのから取り入れている感じです」
2回まで完全投球を見せると、3回からは走者がいなくてもセットポジションに切り替えた。これまでは打者から見て真っすぐに立っていた左腕だったが、この日は右脚を一塁側に出した、いわゆる「クローズド」の構えだった。その差はわずか数十センチ。ちょっとした差に思えるが、この変化に19歳の思いが詰まっていた。
8月4日には20歳に「10代では許されても…」
「やっぱり変えていかないとうまくもならないので。変えて悪くなるときもあると思いますけど、変えて失敗した方が原因を探してうまくなれる可能性がありますから。現状維持っていうのはあまりしたくないので。いろんなことを変えたり、新しいことにチャレンジして、これからもやっていこうかなと思っています」
2軍では無双状態を続け、1軍でも今季初登板となった13日の楽天戦で6回無失点と好投し、プロ初勝利を挙げた。はたから見ればすべてがうまくいっている現状にも満足感はない。何かを変えることで今の形が崩れることに怖さや抵抗はないのかと問われると、「全くないです」と言い切った。
8月4日には20歳の誕生日を迎える。「より大人になるというか。今は18歳で成人ですけど、やっぱり20歳っていうのは節目だなと思うので。より自覚を持って生活しなきゃいけないですし、野球でも10代で許されていたことが、20代では許されないっていう感覚があるので。そういったところも突き詰めて、ミスがないようにやっていきたいなと思っています」。見据えるのは高みだけだ。
「とりあえず最後まで1軍で投げ切ることと、チームに必要な存在となれるように。もうファームに戻ってこないようにというか、1軍で投げ続けることが目標です」。一足早く20歳の抱負を口にした左腕。打ち立てた記録は必然だった。
(長濱幸治 / Kouji Nagahama)