大関友久の“甘い球”はなぜ打たれない? 「アートだと思います」左腕が語った理由

大関友久【写真:小林靖】
大関友久【写真:小林靖】

自己最多タイの8勝目…防御率1.63はリーグ3位

 6年目にして、ついに覚醒の時を迎えている。引き分けを挟んで今季最長の8連勝を飾った27日のオリックス戦(みずほPayPayドーム)。マウンド上で躍動したのが大関友久投手だった。8回にソロを浴びたものの、この回まで投げ切って4安打4奪三振1失点と好投。「ボールの状態はあまりいいと思えなかった」と口にしながらも、自身6連勝でキャリアハイに並ぶ今季8勝目を挙げた。

 今季は16試合に登板して8勝3敗、防御率はリーグ3位の1.63と安定感が際立つ。150キロを超えるような直球や、代名詞と呼べるような変化球はないものの、小久保裕紀監督は「変化球を低めに集めるピッチング。打たせて取るスタイルが確立されている」と総合力を高く評価する。

 なぜ大関は相手打線を抑えられるのか。「心技体の技と体は昔から注目されてきたし、今は色んなアプローチがあふれている。これからは心の時代だと思う」。メンタルトレーナーと個人契約し、日々自らの内面と向き合っていることも大きな要因の1つであることは間違いない。では、「数字」で見れば何が突出しているのか――。本人、そしてアナリストに話を聞くと、意外な反応が返ってきた。

 セイバーメトリクスの指標などで分析を行う株式会社DELTAのデータによると、ストレートによる失点増減の合計を示す「wFA」は規定投球回に達した12球団の投手で3位の「10.8」をマーク。大関は去年も「9.1」と非常に高い数字を記録しており、真っすぐが効果を発揮しているといえる。

直近2年で高い数値を記録する「真っすぐ」

 もう一点、注目するべきは相手打者を「打ち損じさせている」点だ。相手打者にスイングされたときに、空振りやファウル、凡打となって失点を防いでいるかを示す「Swing Value」で、真ん中付近のコースを表す「Heart」の数値は13.6。これは12球団でぶっちぎりの1位となっている。つまり、一般的には“甘い球”であっても、相手を打ち取るケースが極めて多いのだ。

 大関自身、真っすぐの指標が高いことについては「色んな球種との兼ね合いもあると思うし、フォームが明確な形になってきていることが大きいと思います」と、総合的な要因があるのではないかと分析する。一方で、甘い球を打ち損じさせている点についてははっきりと言い切った。

「そこは今年特に手応えがある部分ですね。だから見ている側も『何で打たれないんだろう』って思っているんじゃないかなと思います」

 数字の“プロ”は今季の大関がたたき出しているデータをどのように見ているのか。吾郷伸之チーフアナリストは「数値の面だけで言えば、何かが突出しているわけではない」と明言したうえで、こう続けた。「データ的には1、2回好投しただけなら『運がよかったね』と言えるような内容です。それでも、ここまで登板を重ねて抑え続けている。それは運だけで片づけられない部分ですね」。

左腕が語った価値観「アートだと思います」

 抜きんでた特徴がないと聞けばネガティブに捉えられがちだが、吾郷アナリストはこう説明する。「数字を見る限りでは『何で抑えられているか分からない』としか言えないのが正直なところです。でも、数値が良ければ抑えられるわけじゃないのも野球なので」。データには表れない“何か”が好投の要因になっていることは間違いないようだ。

「データはもちろん大事にしていますけど、それだけじゃ測れないところに価値を見いだしてやっていますし、それが最終的には数字として表れると思っています」。自身の投球をそう分析した大関は、さらに独特な表現で“価値観”を口にした。

「色んなタイミングやフォームの形があって、それが“アート”だと思うんですよ。サイエンスだけでは分からないところに手を付けているというか、そこは自分の中で大事にしていますね。甘いボールで抑えられているというのは、アート的な要素が大きいのかなと思いますし、いつかはしっかりと言葉で表せるようにしたいですね」

 大関の投球は「なぜ抑えられているか分からない」からこそ奥深い――。見ているものの心を揺り動かすような投球を目指す左腕。今後も背番号47の姿から目が離せない。

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)