反撃の狼煙を上げた一打
重い空気を振り払う一打に、確かな成長が見えた。後半戦初戦となった26日のオリックス戦。2点を追いかける6回だった。先頭打者の佐藤直樹外野手が田嶋の初球を完璧に捉えると、打球は左翼席へと吸い込まれた。この本塁打が反撃の口火となり、チームはこの回に一挙4点を奪い逆転勝利。引き分けを挟んでの連勝を「7」へと伸ばす、価値ある白星を手にした。
この一打の裏にあったのは、葛藤との戦いだった。1、2打席目は凡退。「小さくなって、迷ってスイングしていた。“しょうもないな”と思って、しっかり振ることだけを考えていました」。そんな心境で放った、流れを変える一発。雑念を払った無心のスイングがチームを勝利へと導いた。
この切り替えこそが、佐藤直の進化を象徴している。今季は前半戦だけで出場試合数、本塁打、打点とキャリアハイを更新し続けている26歳。首脳陣はその能力を認めつつ、さらなる高みを目指してほしいと願う。著しい成長を見せる佐藤直にどのような働きを期待し、どのような数字を求めているのだろうか。
求められる“数字以上の価値”
「自分の中でメンタルコントロールができ始めてきているのかなと思います。ただ、まだできていない部分もある。いずれにしてもポテンシャルが高い選手なので、自分をコントロールできるようになれば、もう一皮剥けて、いい選手になるはず」
こう語るのは、奈良原浩ヘッドコーチだ。「プロでやる以上は“見られている”という意識。立ち居振る舞いじゃないけど、そういう部分も大事になってくる」と指摘しつつ、凡退後に感情をあらわにしていたかつての姿が減ってきたことに目を細める。悔しさを次へとつながるエネルギーに変えられるか――。それが一流選手へと近づくための課題だと語る。
さらに、奈良原ヘッドコーチは「スタメンでずっと出続けるんだったら、それなりの数字は残せる選手」だと信頼を寄せる。だが、評価するポイントは打率だけではない。「走塁や守備、出塁率だったり、打率だけが評価基準ではない選手はいる。2割6分でもいいよ、という選手もいる」。背番号30には、走攻守すべてにおける貢献と、状況に応じた働きができる選手像を期待している。
メンタルコーチが見た佐藤直樹の“変化
精神的な成長を後押しするのが、伴元裕メンタルパフォーマンスコーチだ。「感情のコントロールができるようになった。自分を少し俯瞰して見ることができるようになって、冷静に行動できるスキルが身についている」と、その変化を“技術的な上達”だと分析する。
「あの能力ですから。それがちゃんと出せればスーパースターになれる。彼の場合は、何かを“伸ばす”というより、持っているものを“出せる”ようになったらいいと思うんです」。伴コーチはポテンシャルを高く評価しつつ、「走攻守で持っているものがすごいですからね。トリプルスリーを狙える選手ですよ」と大きな期待をかけた。
本塁打の後ににじませた“悔しさ”
それでも本人は現状に満足していない。この日の本塁打が生まれた後は、2打席連続で三振に倒れた。「1本は打ちましたけど、後味が悪くなる。『たまたまかな』と思われてしまうので、そこが課題です」。冷静な口調の中に確かな悔しさをにじませた。
自身が見つめる課題と、首脳陣が求める姿勢は、「試合を通して貢献し続ける」という点で一致する。ポテンシャルを開花させるための“心”も備わり始めた男が、チームにとって欠かせない存在へと進化を遂げようとしている。
(飯田航平 / Kohei Iida)