大津亮介が有原航平のグラブを使うワケ 一発勝負で排除した“不安”…「怒りの投球」に込めた真意

有原航平のグラブを手に登板した大津亮介【写真:小林靖】
有原航平のグラブを手に登板した大津亮介【写真:小林靖】

「初めて」だった2か月もの2軍生活

 今の自分を、しっかりと見せつけた。「2か月間、ファームでやってきたことをそのまま出せたのかなと思います」。胸を張って振り返るのは、大津亮介投手だ。前半戦最後の試合となった21日の西武戦(ベルーナドーム)で先発登板。6回1失点で、待望の今季初勝利をつかみ取った。自分自身と向き合った2軍生活。悔しさの中で感じた“本音”を、右腕が打ち明けた。

 先発転向して2年目の今シーズン。開幕ローテーションから漏れることになり、1軍で与えられた3度の先発登板で白星を挙げられなかった。5月17日に登録抹消。2軍再調整をハッキリと告げられた。結果を残して、再び掴んだ1軍でのチャンス。「後悔だけはしたくなかったので。気合が入るのはいいんですけど、これまで投げてきた力感のまま、いけたことがよかったです」と頷いた。

 西武戦でのピッチングは、小久保裕紀監督に「俺を見返してやるという、怒りの投球でしたね」と言わしめた。自他ともに負けず嫌いであることを認める大津。あくまでも足元を見つめつつ、2か月ぶりの1軍登板でぶつけた思いがあった。

小久保監督が「俺を見返すという怒りの投球」

「2か月、下にいたことも初めてでしたし。悔しい気持ちもありましたけど、自分が成長するためにいい時間だなと。それは過ごしている中で本当に思いましたし、また上がってきて1発目の試合だったので。結果も求められると思うんですけど、力まず平常心で投げられたことは良かったかなと思います」

 ルーキーイヤーの2023年は中継ぎとして46試合に登板。昨シーズンは先発として7勝を挙げた。3年目にしてぶつかった大きな壁。「僕、何も怒ったりしていないですからね!」と強調しつつ「なんですかね。監督が僕のそういう気持ちを受け取ったというか、感じ取ってくれたんじゃないですか」と推察した。周囲に伝播するほど、熱い思いを持って迎えたマウンドだったことは間違いない。

タマスタ筑後で登板する大津亮介【写真:飯田航平】
タマスタ筑後で登板する大津亮介【写真:飯田航平】

 2か月もの2軍生活を初めて経験した。1軍における最大の目標は、チームの勝利。一方でファームは昇格のために結果を残そうとする選手もいれば、育成のためにチャンスを与えられる若鷹もいる。ある程度、雰囲気の違いは自然と発生する中で「“軽いな”と思うところもありましたし、全体練習に関しては個人差が生まれていると思いました」。まぎれもない本音だった。自分を律するのは自分しかいない。「どこまでも自己責任。(2軍に)長くいたくはないですね」とキッパリ言った。抱いた気持ちは必ず、今後の取り組みで表現していくつもりだ。

なぜ有原航平のグラブを使用しているのか?

 今大切にしている“相棒”も、力を貸してくれた。ベルーナドームのマウンドに上がった大津の左手。黒色のグラブには「Arihara」と記されていた。実際に有原航平投手が使用していたものを譲り受けたという。「もうずっと言っていたんですよね」と明かすのは、細部にまでこだわる右腕の繊細さだった。

「僕、自分のグラブ自体も有原さんモデルで作っているんです。有原さんにグラブの相談もしていましたし、指にしっくりくる感じとか、使い方、手への馴染みというのは、参考にもしていたんで。そのサンプルをいただいたんですけど、やっぱり一番落ち着きますし。もう手放せないですよね」

 有原との意外な繋がりを明かした。グラブのこだわりについて大津は「『はめる』というよりも、もう手になってほしいんですよ。とにかく、それくらいしっくりきてほしい」と表現する。思い通りに動かすために、体の一部だと思えるほどのフィット感を求めてきた。「不安を持った状態でマウンドに上がりたくなかった。今は有原さんのが手のように馴染んでいるので、使っているんです」と裏側を語った。

 小久保監督も「これくらい投げてくれたら後半戦、頼もしい」と信頼を寄せた。1勝の重みが増す時期へと突入していく。大津も「ここから連勝できるように頑張ります」と力を込めた。悔しい思いはもう味わいたくない。リーグ優勝という歓喜を目指して、チームのために全力で腕を振る。

(竹村岳 / Gaku Takemura)