ベンチでナインを鼓舞する姿…右腕から滲み出る矜持
ホークスの一員として前半戦を戦い抜いた右腕は、充実感も悔しさも味わいながら、より高みを目指している。上沢直之投手はここまで14試合に登板して6勝6敗、防御率3.39の成績を残している。移籍1年目のシーズンを過ごしている中で感じたのは、常勝軍団ならではの“縦の繋がり”だ。
「正直、思い描いてた数字よりかは良くなかったです。自分でももう少しやれるとは思っていますし、このタイミングでいろいろと見つめ直す時間ができているので。物足りないかなっていう気持ちは正直強いですね」
前半戦を振り返って率直な思いを吐露した。自分に対して強い期待を抱くからこそ「物足りない」というのが本音だった。「毎日良くなりたいと思って練習していますし、そういう意味でも悔しい思いの方がちょっと多かったですね」。今月15日には出場選手登録を抹消された。登板間隔を空けることになり、もう一度足元から見つめ直して調整を続けている。
印象的なのは、降板後もナインを鼓舞する献身的な姿だ。5月18日の楽天戦(みずほPayPayドーム)では8回無失点の好投を見せるも、9回に登板したロベルト・オスナ投手が同点打を許した。うなだれてベンチへと引き上げてくる助っ人右腕。自身の白星が消えても、上沢は手を叩きながら出迎えていた。プロ14年目。積み上げてきた矜持が、そこには現れている。
日本ハム時代に見てきた偉大な先輩たち
「ファイターズでファームにいた時から先輩に言われてきたことを、今も続けているだけです。あとは、みんな抑えたいと思って一生懸命やっている。結果がどう出るかは、相手も真剣勝負をしてくるから色々あると思う。僕が投げ終わった後に誰かがそういう(悪い)結果になったとしても、僕も声をかけてもらったり応援してもらっているわけですから。マウンドを降りたら次の仕事をするだけです」
プロ3年目だった2014年、1軍で23試合に登板した。当時20歳の右腕は、多くの先輩からプロとしての“あり方”を学んできた。「たくさんいますよ。有原(航平)さんもそうだし、中継ぎだと宮西(尚生)さんは付き合いも長い。野手だと西川(遥輝)さん……」。目にしてきた偉大な背中が、自分だけのプロ意識を築き上げてきた。
「宮西さんは、『辛い時をどう乗り越えていくか』とか。ピッチャーをやっていくうえで大切なことを、若い時に話してくれたのをすごく覚えていますね。西川さんはめちゃくちゃ練習するんです。ポジションが違うので、練習内容も違うんですけど。あの人を見て『もっとやらなきゃダメだな』と思いました。同級生では近藤(健介)もいて、あいつも最初から練習する方でしたけど、西川さんを見て、より感じたかもしれない。『どれくらい練習する』じゃなくて『これくらいやるのが普通』だと思わせてくれました」
練習は「『これくらいやるのが普通』だと思わせてくれた」
自分一人でプレーしているわけではない。14年間を通して、骨身に染みていることだ。「周りも見ていますし、自分の仕事だけをすればいいっていう感じだと、なんか違うのかなと思うので」。ホークスではすっかりチームにも溶け込み、同僚と過ごす時間も多くなってきた。だからこそ「投げる時は孤独でいいと思いますけどね。姿勢だとか、そういう部分は信頼にも繋がっていくと思う」と、改めて自らに言い聞かせていた。
チームの一体感は、ホークスにも強く感じる雰囲気だという。「長く1軍で出られている上の人がすごくしっかりしている。(中村)晃さんや今宮(健太)さん、マキ(牧原大成)さん、周東(佑京)もスタメンじゃない時はすごく声を出していますよ」と代弁した。移籍1年目ではあるが、ベンチの空気を見ていれば、歴代の先輩が築き上げてきた“伝統”が透けて見える。「僕は来たばかりですけど、そういうのはすごく感じます」と強調した。
「6勝6敗なので。シーズンが終わった時にはしっかり貯金を作って、2桁(勝利)はクリアしたいと思っています。これからまた大事な試合、落とせない試合が続くので。より良い状態で投げられるようにしたいなと思います」。後半戦に向けて、静かに意気込みを語った。福岡に来て、ホークスの良さをたくさん知った。このメンバーで必ず、歓喜の美酒を味わいたい。
(竹村岳 / Gaku Takemura)