アナリストが見たモイネロの現状と変化
まさにニュースタイルでの完封劇だった。19日の西武戦(ベルーナドーム)で9回を112球で投げ抜き、2安打無失点の快投を披露したリバン・モイネロ投手。来日初の完封勝利となった一方で、1試合2奪三振は先発転向後最少、6回を投げ終えた時点では71球、0奪三振という省エネ投球だった。
6月6日のヤクルト戦(神宮)で球団新記録となる1試合18奪三振を記録した左腕。この日は別人のように凡打の山を築き、モデルチェンジを披露した。小久保裕紀監督も「これまでとは全く違うスタイル。新しいモイネロでしたね」と驚きを隠さなかった。
「これまでは腕を思い切り振ってもファウルで粘られて、球数がかさんでいたので……」。この変貌をベンチのアナリストやコーチ陣はどう見ていたのか。様々な角度から投球の変化を探ったーー。
「スライダーの球速を少し落として緩急をつけたり、彼自身が色々な引き出しを使って抑えていくんだという姿を見せていますね」
そう分析するのは古川侑利アナリストだ。ここ数試合は直球が140キロ台後半にとどまるなど、本来の球速が出ていないことを指摘。そのうえで、「いくら頑張っても(球速が)出ない時は出ない。長いシーズンの中でのコンディションの部分もあると思います」と現状を語る。
驚くべきはモイネロの適応能力だ。「そのコンディションの中で、どうやれば抑えられるかをしっかり考えている」と古川アナリストが続ければ、バッテリーを組んだ海野隆司捕手も「状態が悪いとか調子が悪いとかではなくて、その中でどうするかを考えています」と証言する。
倉野コーチが称賛した快投の要因
この日の快投を支えたのは、力ではなく、研ぎ澄まされた制球力だった。試合前、モイネロは海野やアナリスト陣と「コースだったり高さをしっかり(意識する)というのがテーマだった」と綿密にプランを練っていた。
倉野信次1軍投手チーフコーチ兼ヘッドコーディネーター(投手)も「ある程度、きょうは狙ったところにボールがいっていた。それができずに最近は苦労していた登板も多かった。そこの良さがこの結果に繋がった」と、制球力を快投の要因に挙げた。
三振の少なさについて、モイネロは「暑さもあったし、西武打線がアグレッシブに来ていたので、三振はあまり望んでいなかった。なるべく少ない球数でという意識でした」と、省エネ投球が意図的だったことを明かした。
「昔はきょうみたいに…」明かした自身の原点
来日9年目で掴んだ初の完封劇。意外にも、この日の姿こそがモイネロのルーツだった。
「昔はきょうみたいに三振が少なくて、打たせて取るタイプの投手だったんだ。それで長いイニングを投げていたよ」
そう言ってモイネロは笑みを浮かべた。母国キューバで野球をしていた12、13歳の頃を回想し、「三振を取るだけではなく、ゴロやフライでアウトを取っていたよ」と自身の原点を明かした。
コンディションや球場環境の変化に適応し、状況判断から導き出した「ニュースタイル」。それは図らずも、野球少年だった頃の自分を呼び覚ます投球術だった。「ドクターK」から一転、クレバーなエースへ--。先発転向2年目で、状況に応じた最適解を導き出す引き出しの多さを見せ始めている。
(森大樹 / Daiki Mori)