松山2軍監督がマウンドに行き「しっかり守れ」
11月に35歳を迎える右腕にとっても、考えさせられる登板だった。「寂しいっていうのはありましたね」。そう語ったのは又吉克樹投手だ。プロ野球選手の一人として、抱いた率直な感情だった。
前回登板となった12日のウエスタン・広島戦(タマスタ筑後)。初回にイヒネ・イツア内野手と石見颯真内野手の失策が絡み、2点を失った。なお1死満塁でベンチを飛び出し、直接マウンドへ向かったのが松山秀明2軍監督だ。「しっかり守れ」。伝えた言葉は短かったが、指揮官自らが引き締め直さなければならないような状況だった。結果的にチームは1-9で大敗。試合後にはプレーが「軽すぎる」と、若鷹たちを突き放すように言い切った。
マウンドでは松山監督から「又吉は悪くない」と言われたという右腕。4年契約の最終年を迎えている今シーズン、先発に本格転向し、週に1度の登板に対して徹底的な準備をして臨んでいる。広島戦の結果をどのように受け止めたのか。右腕が強調した“プロセス”、試合後のミーティングで挙がった議題、そして首脳陣から出た若鷹を擁護する意見--。今回の出来事を多角的に紐解いていく。
試合後のミーティングで「言ったことが全て」
「試合後にあったピッチャー全体のミーティングで、小笠原さんから『そういうことがあっても淡々と投げられる、野手に声をかけられる投手になってほしい』と。それが全てじゃないですか」
2軍戦では毎試合後、投手、野手ともにミーティングを行う。右腕に声をかけた小笠原孝2軍投手コーチ(チーフ)は「なんでそうやって言ったかというと、又吉が『いいよいいよ。どんどんトライしろ』と言ったんです。なかなかそういうことは言えないし、だからこそカバーしてほしかったんですよね」。言葉に重みがあったからこそ、若手のミスを救うような結果に繋げてほしかったのも本音だ。そのうえで、首脳陣の1人として「(ミスの後に)そういったことが言える彼はすごい。僕にはできないです」とも語った。
翌13日、又吉が疑問を呈したのは試合前のシートノックがなかったことだ。ミスが生まれた直後、改善に動いてもいいのではと率直な思いを抱いた。「『しないんだ』って。ちょっと寂しかったですよ。コーチの指示なのか、僕にはわからないですけどね。そういうのをやってもいいんじゃないかとは思いました」と打ち明ける。イヒネと石見から謝罪の言葉があったというが、「イヒネに関しては、僕の試合でエラーするのは初めてじゃない。他人の人生を変えるのは簡単。そこが『軽いな』と思ってしまった」とも口にした。
若鷹の思いを代弁…明石コーチがかけた厳しい言葉
一方で若鷹の思いを代弁したのが、明石健志R&Dグループスキルコーチ(打撃)だ。「野手のいるところに打たせられないのが悪い!」と又吉には伝えたという。「ふざけてですけどね」と当然、言葉通りの意味ではない。責任があるのはミスをした若手野手2人だ。そのうえで、自分自身の経験とも照らし合わせながら、こう話した。
「イヒネは高卒で入団して3年、石見はまだルーキーでしょ? まだ自分のことでいっぱいいっぱいだとは思いますよ。僕も1年目から1軍で試合には出ましたけど、そんなこと微塵も思っていなかったですし。最初からそういうことを考えられるのかといえば、大半はそうじゃない選手だとは思います。そこを考えて、プレーして、発言できるのはレギュラー陣。そもそも限られた存在なのかなと」
12日の試合は午後5時開始のナイター。3時間33分の試合が終わった後も、石見は守備練習、イヒネは打撃練習をしていた。高卒3年目の背番号36は、5月27日から4日間、1軍を経験。2軍戦では7月の月間打率.319と上昇気流を描いている。明石コーチは「1軍を経験したことで明らかに変わった。『これでやっていく』という形が今、決まりかけている」とその姿を見守っている。ミスの後ではあったものの、バットを振ったのはイヒネなりに一貫した取り組みだったのではと代弁した。
選手1人1人に背負う思いがある。確かな事実は痛恨のエラーを喫したこと、流れを止められないままチームは敗れたということだ。マウンド上において、決して態度には出さなかった又吉。「小笠原さんが言ったように『エラーがあっても声をかけられる選手であってくれ』と。次の日も、いろんな方から『ベテランの鏡やな』と言われましたし、今までやってきたことがそこにある。見てくれている人はいるわけですから」。ベテラン右腕は、イヒネと石見にとってこの試合が大きな成長のきっかけとなることを願っている。
(竹村岳 / Gaku Takemura)