杉山一樹が明かした“宝刀”の秘密 打者を圧倒する「3種のフォーク」はなぜ生まれた?

フォークを投じる杉山一樹【写真:栗木一考】
フォークを投じる杉山一樹【写真:栗木一考】

投球全体の96.7%がストレートとフォーク

 今季の躍進を支えているのは「カウント」「ロケット」「決め球」――。ホークス救援陣の柱として圧倒的な投球を続けている杉山一樹投手。最速160キロの真っすぐと落差の大きいフォークを交えたパワーピッチングが印象的だが、活躍の裏には繊細な感覚と熱心な研究があった。

 7年目の今季はリーグトップの38試合に登板して2勝2敗10ホールド10セーブ、防御率0.96と文句のつけようがない成績を残している右腕。株式会社DELTAのデータによると、投球割合の50.1%がストレート、46.6%がフォークと、ほぼ2球種で相手打者を抑え込んでいることがわかる。

 豪快な投球スタイルと、少し抜けたところもあるキャラクターで知られているが、最新データを駆使する一面も持つ右腕。明かしたのは「3種類」のフォークの存在。そして、シチュエーションごとに投げ分けている事実だった。

切磋琢磨で武器を磨いた右腕の存在

「僕は“カウント”“ロケット”“決め球”って呼んでいます。回転数についてもしっかりデータで見て、使い分けている感じです。リリースがそもそも別物なので。意識するところも全然違いますね」

 杉山の言うカウントと決め球は文字通り、ストライクを取りにいくケースと空振りを狙う場面で投げるボールだ。「理想を言えばカウントは1100~1300回転、決め球は600~700回転くらいですかね。ロケットは『ドン』っていくイメージです」。指先で器用に回転数を操り、異なる軌道を生んでいるという。

 今や伝家の宝刀となったフォークだが、元々はほとんど投げていない球種だった。入団当時は落ちるスライダーを武器にしていた右腕。なかなか結果が出ない中で、ある投手との研究によって磨かれたボールだった。

「フォークを操れるようになったのは最近ですね。藤井(皓哉)さんとお互いの感覚を言い合って、色々と試行錯誤して。そこから段々と良くなってきた感じです」。今季、杉山とともに中継ぎ陣を支えている藤井皓哉投手もフォークを得意とする右腕。切磋琢磨が生んだオリジナルの武器となった。

アナリストも驚愕「140キロ超えるナックルみたいなもの」

 フォークの平均回転数は1000~1400と言われている中で、杉山が「決め球」と呼ぶボールは時に600回転を切ることもある。「一概に回転数が少なければいいということではないですけど……」。そう前置きしつつ、その威力を証言するのが古川侑利1軍アナリストだ。

「回転数が少ないと、一般的には落差が大きくなりやすいです。極端に言えば140キロを超えるナックルみたいなもので、キャッチャーが捕球するのも大変だと思います。どう落ちてくるかもわからないので。日本人でこういうフォークを投げる投手はかなり少ないです。平均からどれだけズレているかが、打ちにくさにつながるので」

 データで見ても、まさに“魔球”と呼べるほどのボール。古川アナリストが驚きをもって話したのは、ボール自体のすごさだけではなかった。「操るのが難しいボールでストライクを取れるところが彼の強みだと思います。それはもう技術です」。

 細やかな感覚と探求心で作り上げた絶対的な武器――。3種類のフォークを自由自在に操る杉山の躍進は極めて必然だった。

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)