復帰初戦でプロ通算100本塁打となるグランドスラム
やはり役者が違った。15試合ぶりの先発復帰で、いきなりのグランドスラム。1試合5打点の活躍で自ら“復帰祝い”を果たした。「久々のスタメンだったので、かなり緊張しました。復帰してまず1本出て、ほっとした気持ちです」。近藤健介外野手の表情には安どの色が広がった。
8日のオリックス戦(みずほPayPayドーム)。4番に近藤健介の名前が戻ってきた。0-0で迎えた3回1死満塁で、エスピノーザのナックルカーブを強振。打った瞬間にそれとわかる打球は、右翼席に突き刺さった。プロ通算100本塁打となる今季3号に加え、8回にも適時打をマーク。「あまりしゃべることないですね。近藤で書いてください」。試合後、小久保監督がそう語るほどの活躍ぶりだった。
6月17日の広島戦で左かかとを痛め、翌18日の同戦から先発を外れる日々が続いた。15試合ぶりにスタメン復帰した主砲に対し、首脳陣が何度も口にしたのは「我慢」の2文字だった。このタイミングで「GOサイン」が下された背景、そしてさっそく表れた相乗効果とは――。背番号3復帰の舞台裏に迫る。
激しい首位争い…1日でも早く切りたかった“カード”
「我慢、我慢ですよ。痛みの度合いっていうのは本人しか分からないので。私も“から足”を経験しましたけど、結構長引くんですよ。1か月半くらい痛かったし、足を地面に着くだけでもキツイ。きょう(8日)は比較的状態がいいということで、先発復帰を判断しました」
近藤と日々話し合い、状態を確認してきた奈良原浩ヘッドコーチはそう説明した。小久保監督も8日の試合後、「先週は我慢したので。せっかくここまで我慢して、ぶり返すようなことがあれば、チームにとって痛手なので」と明かしていた。ホークスに欠かすことができない主軸だからこそ、慎重な判断を強いられた。
リーグ首位を独走した昨季と違い、今季は激しい首位争いの真っただ中だ。首脳陣としては一日でも早く「近藤スタメン」のカードを切りたかった。それでも、再離脱という“最悪のシナリオ”だけは回避しなければならなかった。ここまで温存させられた理由を奈良原ヘッドコーチはこう語る。
「(近藤不在の間に)試合に出ていた選手たちが、よく頑張った証かなと思いますね。自分のやるべきことをしっかりこなして。いい準備をした結果が、今の順位に表れていると思います」
“近藤不在”の14試合は10勝4敗…首脳陣が強調した「準備」
6月20日の阪神戦で決勝打を放った石塚綜一郎捕手、7月3日に再昇格し、打率3割をマークしている山本恵大外野手、同5日の西武戦で2安打1得点の活躍をみせ、お立ち台に上がった佐藤直樹外野手、好走塁を何度も見せてきた緒方理貢外野手……。“嬉しい誤算”もあり、近藤がスタメンを外れていた14試合を10勝4敗で乗り切ってみせた。
主砲の復帰でさっそく相乗効果も表れた。8日の試合で近藤の前に座った3番の柳町達外野手は、2安打を含む4出塁をマーク。選んだ2四球はいずれも近藤の打点につながった。復帰戦で5打点を挙げた近藤には「さすがとしか言いようがないですね」と思わず苦笑い。そのうえで「後ろにつないだらすごいバッターがいますし、それが僕の1つの役割でもあるので。強引にならずにいいボールの見極めができました」と手応えを口にした。
小久保ホークスにとってこれ以上ない戦力が戻ってきた一方で、まだまだ近藤の状態は完全ではない。本人も「だいぶ良くはなってきていますけど、今はできる範囲でっていう感じです」と口にする。近藤がシーズン最後まで打席に立った時にこそ、首脳陣が重ねてきた我慢は実を結ぶ。
(長濱幸治 / Kouji Nagahama)