前田悠伍の昇格、なぜこのタイミング? 首脳陣が明かす“特別”な基準「悠伍の場合は…」

1軍に合流した前田悠伍【写真:栗木一考】
1軍に合流した前田悠伍【写真:栗木一考】

前田悠伍が1軍本隊に合流…13日の敵地・楽天戦で今季初先発へ

 大記録に肩を並べて、ようやく掴んだ挑戦権だ。前田悠伍投手が8日、1軍に合流した。ウエスタン・リーグで37回2/3連続無失点と結果を残してきた左腕。なぜこのタイミングで昇格となったのか。首脳陣の言葉から紐解いていく。

 2023年ドラフト1位で大阪桐蔭高から入団した左腕は2年目の今季、2軍では11試合に登板して5勝2敗、防御率1.07と圧倒的な成績をマーク。現在、連続無失点は37回2/3まで伸び、1973年に広島の有田哲三投手が残したウエスタン・リーグ記録に並んでいる状態だ。1軍から声がかかるのを待ちながら、「突き詰めてやっていきます」と自らに言い聞かせてきた。

 小久保裕紀監督は、13日の楽天戦(楽天モバイルパーク)で19歳左腕を今季初先発させることを明言した。「ファームであれだけの成績を残してきた。実力で勝ち取った」とキッパリ。日本ハム、オリックスと激しい首位争いを繰り広げている現状で1軍昇格となったのは、さまざまな準備が整ったからだ。

「休みの日だったので、由宇の試合を見に行ったんです。間近でピッチングを見て『これなら上で投げさせたいな』と。前回の登板もよかったので。今、使えるところで使いたいなと思いました」

 経緯を明かしたのは倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)だ。6月25日、左腕が7回4安打無失点と好投した広島戦(由宇)を視察。1軍首脳陣に直接アピールできる貴重なチャンスで、見事に結果を残していた。「前回の登板」とは、今月3日の阪神戦(タマスタ筑後)。5回2安打無失点の快投が“GOサイン”へとつながった。

圧倒的な結果の中でも口にした「一定の課題」

 今季、1軍で先発登板を果たしたのは8人。前田悠が9人目となる。倉野コーチも「1軍で使うわけですからね。他の投手よりも『劣る』と思っていたら使わないです。それくらいの評価をしています」と明言する。8日終了時点で貯金13を重ね、首位・日本ハムを1ゲーム差で追っている。「優勝争いをしているこの時期、首位でもない立場でね。試すようなことはできないし、勝負できると思って呼んでいます」と繰り返した。

 37回2/3を無失点と結果を残してきたのも、それだけ2軍で投げてきた証。1軍の先発投手陣が“椅子を空けない”ほど、濃い内容の投球をしてきたのも事実だ。倉野コーチは「それもあります」とローテーションの兼ね合いも強調したうえで、一定の課題も口にした。

「これまでの投球も把握していましたけど、悠伍の場合は『ファームの結果=1軍』ではなかった。どういう指標がよければ……という話は、ファームのコーチと連絡を取り合いながらやっていました」

“指標”こそ明らかにはしなかったが、無失点を続けていた中でもセットポジション時には直球が140キロ前後にまで落ちてしまう日もあった。思うような状態ではなくとも試合を作れることは左腕の持ち味だが、常に「1軍ならどうか」という視点で見られてきた。プロ2度目の先発マウンドとなる。小久保監督が「ドラフト1位やから優先して投げさせる、とかではない」というように、自らの力で掴んだ1軍切符だ。

 チーム状況と、何よりも19歳左腕が残してきた結果。さまざまな準備は整った。倉野コーチも「若手だからとか、そういう考えは排除しています」と指揮官の言葉に同調。前田悠も「楽しみです」とうずうずした表情で語った。7月13日、仙台のマウンドで必ず進化した姿を見せる。

(竹村岳 / Gaku Takemura)