求められるライバルの台頭「2番手でいいや、だったら結局そこ止まり」
“三塁・栗原”の対抗馬は「いない」——。現在、小久保裕紀監督が今季のレギュラーと明言しているのは柳田悠岐外野手、近藤健介外野手、山川穂高内野手の3人だけだが、自らの行動と結果で不動の地位を築き上げようとしているのが栗原陵矢内野手だ。
昨季は140試合に出場し、打率.273、20本塁打、87打点をマーク。三塁手としてベストナインとゴールデングラブ賞を獲得する活躍を見せた28歳。本多雄一内野守備走塁兼作戦コーチは、レギュラーとして扱う絶対条件として「1年間怪我をしないこと」を挙げるが、「栗原がいい例ですよね。怪我をせず1年間プレーできていたので」とうなずく。
栗原は2020年に初めて開幕スタメンを勝ち取り、レギュラーへの道を歩み始めたはずだった。だが、2022年に左膝の大怪我を負い、復帰した2023年にも膝の炎症や右手有鈎骨骨折で離脱を強いられた。苦しい2年を経て、昨季は3年ぶりとなる規定打席到達でチームを引っ張る大健闘だった。
「栗原の存在は本当に大きかった。自分で自分を築き上げた“代えの効かない選手”だったと思う」。そう絶賛した本多コーチだが、評価しているのは1年間怪我をせず、成績を残したことだけではない。
「去年の栗原に関しては、ミスをしたら何をしないといけないのかっていうのを自分で明確に分かっていたので。それを僕に言ってきましたから。より高みを目指すためには自分で考え、行動し、発言していくことで自らにプレッシャーをかける。この積み重ねだと思うんですよ」と本多コーチは語る。
栗原は守備でミスをした際に、ビデオを何度も見返していたという。なぜミスが起きたのか——。細かい動きまで確認し、どう改善していくべきなのかを模索していた。「コーチ任せではなく、自分で考えることが一番大事なので。それができなければ、行き当たりばったりになってしまう」と本多コーチは強調する。栗原といえば打力に重きを置いたプレーヤーに思われがちだが、守備への意識も非常に高い。本多コーチも「結局、野球は走攻守であって。やっぱり守れないとチームは負けますから」と指摘する。
「毎試合出ているからこそ、そういう志になってきたんじゃないですか。環境がそう言わせるんです。試合に出たり出なかったりだったら、守備にまで目がいかないかもしれないけど。打っても打てなくても試合に出させてもらって、そういった考えになってきたんじゃないかと。『これじゃダメだ、これじゃダメだ』って自分に言い聞かせてきたからだと思うんですよね」。スタメンに名前を連ね続けたからこそ、次第に自覚と責任感が強くなってきた。
だからこそ、本多コーチは“三塁・栗原”に「対抗馬はいないですね」と言い切った。「去年あれだけの成績を残した栗原の“対抗馬”になるためには、抜こうとする覚悟がないと。『2番手でいいや』という努力だったら、結局そこ止まりなので。対抗できるように、もっと努力を積まないといけないですよね」と言葉を強めた。
努力したからといって結果を残せるほど、甘い世界ではない。必要なのは自らを知ることだ。「結果を残すために、いろんな考えの下で努力をしましょうよと。ボールを打つだけが努力ではなくて、やっぱり勝つためにはどういう角度から勝負するのか。その“野球脳”を鍛えていく作業が必要です」。現状で勝てないのであれば、努力の方向性が間違っていないのか——。一度立ち止まって考えなおすことも、時には必要だという。
主力選手も初めは誰かからそのポジションを奪ってきた。「対抗馬って言われる人は、“本命”の真似ばかりしていても勝てないんですよ。どうやったらいいパフォーマンスを見せられるのか。違う角度で勝てばいいわけです。打つことで勝てないんだったら、例えば足の速さだったり、守備のうまさだったりで勝負する。結果を残すために考えてやり続けないと……」と熱を込めた。
本多コーチは現状について「対抗馬、誰がいますかね?」ときっぱり言い切った。「これは野球だけじゃなくて、別の仕事でも一緒だと思う。この人より上に行きたいとかうまくなりたいとか、はやりをいち早く取り入れたいから、自分で調べて先を行こうとするわけじゃないですか」。
考えることはすべての分野に通ずる。野球の世界では、勝ち抜くための方法を導き出し、行動できることも大事な“野球脳”だ。「野球の世界で生きていくのであれば、野球で努力するしかないですから」。対抗馬がいない状況が好ましいわけではない。栗原を焦らせる存在の台頭こそが、よりホークスを強くする。
(上杉あずさ / Azusa Uesugi)