残り“1枠”をかけた争いは、すでに始まっている。正木智也外野手は今オフ、井上朋也内野手らとともに自主トレを行い、レギュラーを掴むために必死で汗を流している。今季も厳しい外野手争いが繰り広げられることが予想される中、25歳はどのような覚悟を持って日々を過ごしているのか。
昨季は飛躍の1年になった。キャリアハイとなる80試合に出場し、打率.270、7本塁打、29打点をマーク。柳田悠岐外野手が離脱した穴を埋める活躍を見せるなど、「自信がついた1年でしたし、自分の型とかやりたいバッティングを見つけられた1年でした」と、手応えを掴めたシーズンだった。
それでも現時点では、柳田を左翼、近藤健介外野手を右翼で起用することを小久保監督が明言している。柳田の指名打者起用も考えられるが、レギュラーとして名前を挙げた選手の中に正木の名前はなかった。本気で定位置を奪いに行くシーズンを前に、現在の心境を明かした。
「去年うまくいったからといって、今年もうまくいくとは限らないですし。去年はギータさんが怪我をして、そこに入れたっていうだけで。今年は最初からギータさんもいるし、また違った形になると思うので。またフラットな状態から始まるし、スタメンを掴みにいきたいと思っています」
昨季の成績で自信をつけた一方で、自分の“城”を築き、揺るぎないものに変えていくためには、今季が大事な1年になる。それでも、「危機感は去年のこの時期の方が強かったです。だけど、去年はレベルアップできた1年でしたし、このオフもやりたいことを自分で定めて、それに取り組むことができているので。いいオフになってるかなと思います」。1年前とは違った心持ちで自主トレに臨めている。
柳田と近藤はもちろん、残り“1枠”にも大きな壁が立ちはだかる。昨季ゴールデングラブ賞と盗塁王を獲得した周東佑京内野手。さらに、慶大の先輩でもある柳町達外野手や、笹川吉康外野手らも、その椅子を巡る強力なライバルとなる。それでも昨季の1年間で得た経験からくる、心境の変化を感じているという。
「すごい選手方がいっぱいいるし、若い選手もいっぱいいて、激しい戦いになると思うんですけど。やりがいはその分あると思うので、絶対に負けたくないです。残り1枠っていうのがあるので、そこに向けて全力でいきたいなと思います」
こう語った正木の声には力強さがあった。レギュラー争いに向けた揺ぎない信念があるからだ。「去年1軍に上がる前から、こういう感覚、こういう練習をやったらうまくいったっていうのがありました。それが3段階あるとしたら、去年は1段階しかできていなくて、その状態で1軍に上がってうまくいったんです。でも終盤の方は苦戦もしたので、その2段階、3段階目をこのオフでやっているんです」。
自身が目指しているスイングが完成する前でも、通用する感覚はあった。あとはどれだけ極めていけるかが、レギュラー奪取へのカギを握る。「すごくいい練習ができています。クオリティというか、レベルは上がっていると思うので」。そのために、無心でボールを打ち込める環境を自主トレの場所に選んだ。
雪が降る中でもスイングすることをやめなかった。ライバルたちに差をつけるためには、まだまだやることがある。そう言わんばかりの姿だった。それでも、白い息を吐きながらバットを握る表情からは、ゆとりのようなものも感じた。限られた枠の中で、正木がどのようにして頭ひとつ抜け出していくのか。今季も飛躍の1年にしてほしい。