近藤健介が見失った本来の姿 任された5番、“最強打者”が明かした本音「みなさんが勝手に…」

契約更改後に記者会見するソフトバンク・近藤健介【写真:冨田成美】
契約更改後に記者会見するソフトバンク・近藤健介【写真:冨田成美】

パ・リーグMVP受賞の近藤が抱えていた苦悩「大振りになった時期もあった」

 パ・リーグMVPを受賞した天才打者であっても、これまで感じたことのない重圧と戦っていた。「ここまでチャンスが回ってくるか、みたいな。そういう雰囲気も最初はあったので。全然違いましたね」。今季開幕から129試合にわたって任されてきた5番打者。全ての戦いを終えた今、本音を明かした。

 近藤健介外野手が29日、契約更改に臨み、現状維持の年俸5億5000万円プラス出来高払いでサインした(金額は推定)。7年契約の2年目となった今季は打率.314で自身初の首位打者、出塁率.439で2年連続4度目となる最高出塁率のタイトルをそれぞれ獲得した。本塁打、打点の2冠に輝いたチームメートの山川穂高内野手を抑えてのMVP受賞。現在の球界で「最強打者」とも称される31歳にとって、充実の1年となった。

 4年ぶりのリーグ優勝を果たした今季のホークス。打線の大きな焦点となったのが「5番近藤」だった。山川が大不振に陥った時も、小久保裕紀監督は打順を変えようとしなかった。日本ハム時代には2、3番を打つことが多かった巧打者に与えられた新たな“職場”。シーズン中は打順について多くを語らなかった近藤が思いを明かした。

「やっぱり最初はギーさん(柳田悠岐外野手)、山川さんの凄まじい打撃を目の前で見て、どうしても大振りになった時もあった。5番の難しさというか、なんとか欲を抑えようと考えていました」

 プロ13年間で規定打席に到達した6シーズンのうち、打率3割以上を5度もマークしている近藤であっても、自らの形が崩れてしまいそうになるほどの経験だった。シーズン開幕当初は3番柳田、4番山川と自身の前に球界を代表するパワーヒッターが並んだホークス打線。昨季は本塁打王に輝いた近藤にとって、“内なる戦い”を強いられた日々だった。

“試練”を乗り越えられたのも、近藤の実力があったからこそだ。「やっぱり自分のスタイルというか、できることとかやってきたことは何番を打っても変わらないなと思い出せた。そこからは、そこまで難しさはなくなってきて、ある程度は自分の打撃ができるようになった感じですね」。

 苦しみの先には新たな発見があった。「5番をずっと打ってきて、最後はやりがいもありました。打順に慣れてきて、自分のスタイルをまた見つけられたというか。また1つの“引き出し”になったので。やっぱり色々と経験していきたいなとも思います」。巧打者から強打者への変貌を遂げた31歳は不敵に笑った。

 パ・リーグで唯一の「3割打者」であり、リーグ断トツのOPS.960をマークした近藤には“球界最強打者”との呼び声も多く聞かれるが、いたって本人は冷静だ。「みなさんが勝手に言っているだけなので。なんとも思わないです」。続けたのは、飽くなき向上心だった。

「その年、その年でバッティングは終わりだと思っているので。また来年に向けて、しっかりと自分の形を見つけていきたいなと。同じことをやっていても駄目。新たなことに挑戦しながら、よりいいものを求めて微調整していきますし、そんな中でも打率3割、出塁率4割は必ず達成しないといけない。そこは自分の中で決めているので。あとは本当にホームランも打ちたいですし、打点も増やしたいですね」

 球界随一の打撃力を雄姿ながら、努力の天才でもある。来季もホークス打線の中心に座り、チームに多くの勝利をもたらす一打を見せてくれるはずだ。

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)