今季限りで現役を引退することが発表されたソフトバンクの和田毅投手が、鷹フルの単独取材に応じた。左腕が明かしたのは22年間の現役生活で貫き通した「信念」と、長年声援を送ってくれたファンへの“謝罪”だった。
「和田電撃引退」の一報は、チームがレギュラーシーズンを戦い抜き、クライマックスシリーズ、日本シリーズと続いた激闘を終えたタイミングだった。プロ生活22年でNPB通算160勝、日米通算で165勝を挙げた43歳左腕は、自らの引き際を自由に決められるだけのキャリアがあった。それでも、プロ野球選手にとって“最後の晴れ舞台”とも言える引退試合を今季中に行うことを望まなかった。和田が口にしたのは、真剣勝負の世界で生き続けてきたからこそ持つ「美学」だった。
「僕が22年間大切にしてきた思いを、たった3球で失いたくはないんです」
投手にとって引退試合の“通例”は、打者1人と対戦し、アウトにとって現役生活を締めくくるもの。いわば「予定調和」の形だ。「たくさんの方がされてきたことだし、悪く言うつもりはないんですけど……」。和田らしい心遣いを見せた上で、こう続けた。「僕は真剣勝負だけでやってきた。個人的には好きじゃないなと」。
この言葉こそが和田毅たる所以だ。「自分の通算成績に“打ち取られてくれた1アウト”が残るのが嫌なんです」。幾度となく故障と闘ってきた。近年は常に引退の2文字と向き合い「この1球で現役生活が終わっても構わない」との覚悟で腕を振り続けた左腕を形作ってきた“プライド”だった。
自らの信念を貫き通した一方で、左腕が口にしたのは“謝罪”だった。「引退試合を楽しみにしてくれる人も多いと思いますし、この選択は“裏切り行為”なのかなとも考えました」。多くのファンから愛され、誰よりもファンを愛してきた和田だからこそ、出てきた言葉だ。
和田にとっての“けじめ”は、11月24日に開催される「ファンフェスティバル2024」にも向けられた。当初は引退セレモニーが企画されていたが、自ら断りを入れた。「あの舞台は全てのホークスファンが楽しむためのもの。それぞれ、お目当ての選手は違うでしょうから。僕のための空間になってはいけないと思っています」。普段の柔らかい表情で、そう口にした。
「自分らしい引退の形にしたい」。和田が明かしたのは、来年の自主トレへの“参加”だった。「もちろんガッツリとした練習はしないですけど、これまで参加してくれたメンバーへの引継ぎとか。引退したから放り出すわけにはいかないので」。今年1月の自主トレには過去最多の16選手が参加。ホークスはもちろん、他球団の後輩からも慕われている背景には、左腕の面倒見の良さがある。
引退試合については来年3月のオープン戦を予定しているという。「査定に入るわけじゃないと思いますし、自分のチームにも、そして相手にも迷惑をかけないので。もしやらせてもらえるなら、そこがいいかなと思っています」。どこまでも真剣勝負の中で生きてきた和田らしい考えだ。
「僕には(松坂)大輔のような才能はなかった。だからこそ必死に努力し、天才に近づくための挑戦を続けてきたんです」。体格も球速も“平凡”だった和田毅が、43歳まで現役を続けられた理由は、その人間性に尽きるだろう。
(長濱幸治 / Kouji Nagahama、飯田航平 / Kohei Iida、竹村岳 / Gaku Takemura)