降格以降、松山2軍監督が見てきた廣瀬の姿とは…
名指しでのハッパは、期待の現れだった。日本ハムとの「2024 パーソル クライマックスシリーズ パ」ファイナルステージが始まる前の10月10日。小久保裕紀監督は、CSでベンチ入りメンバーを見極めるために、みやざきフェニックス・リーグの視察に訪れていた。「現状、(2軍からは)推薦する選手はいないというところ」。こう語る中で、指揮官が名指しで指摘したのが廣瀬隆太内野手だった。
「ちょっと廣瀬が……。1軍で預かって、このまま戦力になりそうやなってところから牧原(大成内野手)が戻ってきて。併用しないと決めて1回落としたけど、その後の姿がちょっと物足りないなっていう。普通は1軍を経験したら、『よし来年は(定位置を)掴めそうやな』っていうものがもう少し出てもいいんじゃないかなと思ったんですけど。そのあたりは松山監督も同じ意見でした。いい階段を上がってほしい(と期待する)中では、そこは見られなかった感じですね」
5月28日に1軍に昇格して、登録抹消となった7月15日までの約1か月半を1軍で過ごした。1年目の成績は打率.233、2本塁打、9打点。小久保監督が気になったのは、試合の結果や成績ではなく、ルーキーの“姿勢”だった。同意見だったという松山秀明2軍監督に、抹消以降の廣瀬の姿がどのようなものだったのかを聞いた。
「横ばいですよね。逆に言ったら落ちていますよね。1軍に上がる前の方が調子が良かったし、あの時が1番いい状態で。みんなそうなんですけど、1回上がって落ちるんですよね。その次にもう1回上がらないとプロって難しいんですよ。でも、もう1回上がるっていうことが今起こっていないんですよ」。松山2軍監督はこう語り、さらに続ける。
「将来、彼がチームの中心となって、レギュラーになっていってほしいという(小久保)監督の思いもあると思うんですよね。右打者というところも。そういう思いが強いが故に、どうしても期待は高くなる。でも今の現状は、打撃も守備もちょっと伸び悩んでいるというか。それがちょっと心配というか。もう少し1軍の経験を活かして伸びてくれるんじゃないかな、もうちょっと成績が出ていくんじゃないかなっていう思いから。期待を込めての発信だったとは思いますけどね」。小久保監督の思いを代弁しつつ、松山2軍監督が見てきた現状を明かした。
5日に行われたファーム日本選手権でも、打ち取ったかに思われた打球を落球。記録は安打になったが、首脳陣の目には精彩を欠いたプレーに映ったのだろう。
東京六大学歴代3位タイの本塁打記録も…必要になる「新しいものを探る勇気」
出場選手登録を抹消された7月15日、廣瀬は北海道からタマスタ筑後に移動した。オリックス戦の試合途中に到着すると、すぐにアップを済ませて、9回2死二塁の場面で代打として出場した。観客席から大歓声が起こる中で、右中間を破るサヨナラ打。1軍を経験したことで一回り成長した姿が、そこには確かにあった。しかし、その後は思うように状態は上がらず、廣瀬本人も「(調子が上向きそうな)兆しは今のところない」と本音をこぼしていた。
見守ってきた松山2軍監督も「ジレンマもあるでしょう。やってもやっても上がらない。本人なりに努力はしているとは思うんですけど、結果はついてこない。ということは、やっぱり何か方法論であったり、自分が思っている感性、技術っていうものを改めて見直していく時期ではあるんじゃないかとは思いますけどね」と語る。
その上で、廣瀬には何が必要なのか。「2軍の場合は、結果を追いかけるよりは、結果を出すための土台がしっかりできているのかっていうことです。きっちりとしたプロセス。なぜこういう結果なのかということの土台の方が大事なので。当然、結果が出ないと1軍には行けないですけど。基礎を固める、技術を固めるという部分を飛び越えてしまうのは、あまり良くないですよね」。今は大事にすべきものを見つめ直す時期。“結果を出すこと”以上に大切なものがあることに気づくことが重要だと明かす。
「多分、今まで打ってきた実績や、やってきたものがベースにあると思うけど、それが全てではない。過去のものを追いかけたって、過去以上にはならないので。新しいものを見つけるしかないと思うんですよ。新しいものを探る勇気がまだないんじゃないですかね。『大学ではこれで打てたので』って、過去を追っかける選手って前に進まないので。やっぱり前を向いて、新しい自分を作っていくっていう考え方も必要じゃないのかなとは思いますけどね」
慶大時代には通算20本塁打を放ち、東京六大学の通算本塁打記録で3位タイの実績を持つルーキー。それでもプロでは新しい自分を見つけていかなければならない。「正木にこの前聞いたら、『自分のフォームが見つかった』と。常に自分はこうすれば結果が出るんだっていう、何か確信がある練習方法であったり、フォームや技術。それを掴まない限り、わからないままずっとやっていても、自分が悪くなった時の修正方法がないんですよね。ちゃんと自己分析できる力が今から必要にはなってくる」と松山監督。慶大時代からの先輩でもある、正木智也外野手も新しい自分の形を見つけて、今季飛躍した。
「だけどまだ1年目なので」。最後にこう語り、松山2軍監督は厳しくも温かな目で期待を込めていた。
(飯田航平 / Kohei Iida)