大きな関門を乗り越えた指揮官が感謝したのは、苦境のチームを救った主砲の一言だった。「あの言葉はチームに勇気を与えてくれましたね」。悲願の頂への道のりは、残すところ日本シリーズのみ。シーズン開幕から4番を任せてきた男への信頼は、最後まで変わることはない。
「『大丈夫でしかない』というコメントは、チームに勇気を与えてくれましたね。松本(裕)が打たれたりして、あんまりうまくいかなかった時期だったので。あのコメントを次の日にネットで見て。中心選手がああいう発言をしてくれたことは、チームがバタバタしなかった一つの要因ではありますよね」
小久保監督が振り返ったのは、9月4日の日本ハム戦(みずほPayPayドーム)だった。試合は3点リードの9回、クローザーの松本裕樹投手が先頭打者に四球を与えたところで緊急降板。バトンを受けた若手投手が相手打線につかまって一挙6失点し、逆転負けした試合だ。松本裕は右肩の違和感で離脱が決まり、チームは今季一番といっていい重苦しい空気に包まれていた。
試合後に取材対応した山川の言葉は、ある意味で“場違い”なほどポジティブなものだった。「大丈夫でしょ。大丈夫でしかないと思いますけど。余裕をぶっこくわけではないですけど、年間を通したらこういう日もありますし。もっとあってもいいぐらいです。『うわ、ちょっとやられちゃったな』っていう日は(どんな年でも)ありますけど、めちゃくちゃ少ないですよね」。
この言葉は、山川の“実体験”から生まれたものだった。「僕が(西武時代に)山賊打線って言われていたときは、『ああ……』っていう展開から始まるみたいな試合はいっぱいあったんで。我々はプロ野球選手である以上、全く引きずる必要はないですよね。相手も変わるし。また(試合がある)明後日には明後日の風が吹くんじゃないかと思いますけど。ただそれだけだと思います。何にも気にしてないですよ」。主砲はそう言うと、胸を張って帰路に就いていった。
小久保監督がネットで目にしたのは、この発言だった。シーズン終盤での守護神離脱という緊急事態にも、全く動じることなく切り替えの重要性を説いた主砲。チームを指揮する者として言葉にはできなかった思いを代弁してくれた山川への感謝は尽きなかった。
シーズン開幕から全143試合で4番に座り、本塁打と打点の2冠に輝いた主砲の存在は、新人監督にとってこの上なく頼もしかったに違いない。バットだけでなく、発言でもチームを引っ張った山川。小久保監督が求める「4番像」に最もふさわしい男だ。