近藤健介の“リアルな現状” 1か月での復帰「普通じゃない」…首脳陣も驚く主力の“覚悟”

勝ち越し2ランを放ったソフトバンク・近藤健介【写真:冨田成美】
勝ち越し2ランを放ったソフトバンク・近藤健介【写真:冨田成美】

日本シリーズ進出に王手をかけた決勝2ラン…監督室で決まったCS出場

 万全には程遠い状態を、強靭なメンタルでカバーした。17日の「2024 パーソル クライマックスシリーズ パ」ファイナルステージ第2戦、決勝打を放ったのは近藤健介外野手だった。1点を先制され直後の初回、山川穂高内野手の適時打で追いつくと、なお2死一塁で加藤貴の直球をフルスイング。完璧な手応えを残した打球は右翼席に突き刺さった。右足首の故障から復帰後、初となる2ラン。「アグーさん(山川)が打ってくれたんで楽に打席に立てましたし、その勢いのまま打てたかなと思います」と笑みを浮かべた。

 グラウンドに立つことすら、危ぶまれるほどの状態だった。9月16日のオリックス戦。二盗を試みた際に右足首を痛め、「右足関節捻挫」の診断を受けた。23日の同戦でリーグ優勝を決めた際には松葉杖をつきながら京セラドームのグラウンドに現れた。ビールかけには参加したものの、「(ビール)2本くらいで帰りました」とすぐに会場を後にした。全てはCSに間に合わせるため、治療を最優先にした近藤の判断だった。

 日本シリーズ出場に王手をかけたCSファイナル第2戦後、小久保裕紀監督は殊勲の一打を放った近藤についてこう口にした。「怪我の具合からいうと、驚異的な回復じゃないですかね。一番気にしていたのは、今後の野球人生に影響があるか、ないかというところだったので」。初戦を翌日に控えた15日には監督室で2人きりで話し合い、出場を決めた。故障の程度はどれほどのものだったのか。首脳陣の言葉から「リアルな現状」に迫った。

「1か月でゲームに戻ってくるっていうのは普通じゃないでしょうね。超人的な回復力といっていいのかもしれないですね」

 そう語ったのは村上隆行打撃コーチだった。自身も現役時代に足首の捻挫を経験したことがあるといい「僕は中途半端に治して、焦ったまま(試合に)出たんですけど。やっぱり長引くというか、変な癖ができちゃう。今でも腫れていますし、なんかずれるみたいな感覚はある」と、プレーへの影響を説明した。

 小久保監督も指摘した「今後の野球人生への影響」。それを考えれば、近藤は試合に出るべきではないのかもしれない。あくまで痛みは本人にしか分からない。それでもプレーすることを選んだ“判断”について、村上コーチは「様子をしっかり見て、トレーナーからの報告を受けていけるかどうかというのは考えています」と前置きしたうえで、こう分析した。

「僕らがやっていた時代は、骨折していても(プレー)できるならできます。近藤もそういう気質があるというか、痛みに強いです。だからレギュラーなんです。もちろんリスクを抱えないことが一番ですけど、やれる範囲の中でやるのがレギュラー。そこで仕事をちゃんとやる男なので。さすがとしか言いようがないですよね」。強い覚悟を胸にプレーする主砲の姿に最敬礼した。

京セラドームで松葉杖をつくソフトバンク・近藤健介【写真:小池義弘】
京セラドームで松葉杖をつくソフトバンク・近藤健介【写真:小池義弘】

「足首は一番、人間として基本的な動作をする部分というか。首も腰も股関節もそうですけど、関節があるところに痛みを抱えると、どうしても力が入らないので。箇所が箇所なだけに、やっぱりきついですよね」。そう話したのは、近藤と同じ「右足関節捻挫」を経験したことのある本多雄一内野守備走塁兼作戦コーチだった。

 本多コーチは現役時代の2015年、試合中にセーフティバントを試みて、右足首を痛めた。当初は全治4〜6週間と診断されたが、1軍復帰には3カ月ほどの時間を要した。「僕の場合はひどかったですね。じん帯損傷の手前くらいだったので。足をつくのも痛かったですし。その程度は違うと思いますけど」としたうえで、「やっぱり敏感にならざるを得ないですよね。治りがちょっとでも遅くなると、復帰の時期にも関わるので。そこは慎重になると思います」と、足首を故障することの怖さを強調した。

 近藤自身が口にしたのは強い責任感だった。「シーズン終盤に(チームに)いられなかったっていうのも個人的に悔しかったですし、怪我した時からCSに向けて(戻ってくる)というのは思っていたので。何とか帰ってこれて、足を引っ張ることなく活躍できたことはよかったのかなと思います」。

 右足首の状態については「しっかりと時間もありましたし、治療に専念することができたので。状態が上がってくる中でいけるという判断はできました。無理をしながらということはないですね」と強調。その一方で、「朝起きた時に(足首の状態への)怖さっていうのはありますけど、ここ最近はいいんで。しっかりケアをしながら、交代しないように。このまま上がってくれることを願っています」と正直な思いを明かした。

 これまでのプロ生活も多くの故障に見舞われながらも、球界屈指の打者として自らの立ち位置を築いてきた31歳。今後も状態を慎重に見極めつつ、ホークスのためにバットを振る覚悟だ。

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)