ここ一番に“逃げ道”はない…中村晃が抱いた葛藤 小久保監督に求められた「覚悟」

ソフトバンク・中村晃【写真:竹村岳】
ソフトバンク・中村晃【写真:竹村岳】

重要な場面で代打…貫いた準備は「そこで出るに値する選手でありたい」

 鷹フルではソフトバンク・中村晃外野手への単独インタビューを5日連続で掲載します。3回目のテーマは「首脳陣からの信頼」について。今季に関しては重かった「チームリーダー」の肩書き……。9月中には、揺れ動く自分の胸中を見透かされたような言葉を小久保裕紀監督から言われたそうです。指揮官からの絶大な信頼は、中村晃にとって“逃げ道”がないことを意味していました。「自分がここで出ていっていいのかな」。語った葛藤とは――。

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「言い訳しない、人のせいにしない、環境のせいにしない」。小久保監督が中村晃の人間性を評した際の言葉だ。チームは昨オフに山川穂高内野手、アダム・ウォーカー外野手らを補強。今季は2021年から続いていた開幕スタメンの座を逃すことになった。指揮官から託された役割は、ほとんどが代打。小久保監督は「開幕からずっと難しいポジションを任せている」と語っていたが、中村晃にとっては重圧との戦いだった。

「本当にね。全然打てないのに、いつもいいところの代打で使ってもらいましたし。なかなか期待には応えられなかったと思いますけど、そこで出るに値する選手ではありたいなと思ったので。準備とかは欠かさなかったです。妥協したものはないのかなと思いますし、それはできたと思います。あとは結果を出せれば良かったんですけど」

 小久保監督は中村晃を「スタメンで使えば、試合数と同じくらいのヒットを打つ」と評価していた。編成上の理由でベンチスタートとなっていることを、指揮官は誰よりも理解してくれていた。そのリスペクトを込めて、「ここ一番では絶対に晃」と試合終盤の重要な場面で送り出してきた。中村晃自身の状態が悪かったとしても、首脳陣は信じて使ってくれる。どれだけ苦しくとも、徹底した準備を続けなければならず、それは“逃げ道”がないことを意味していた。期待と信頼は、ひしひしと伝わっていたからだ。

「やっぱり批判もされますし。『自分がここで出ていっていいのかな』と思うことはシーズン中もありました。だからといって、準備を怠ることはなかったです」

 前半戦を打率.195で終えた。結果が出せないことに誰よりも責任を感じた。背中を痛め、8月12日に出場選手登録を抹消された時も、小久保監督は「いける(復帰できる)なら言ってこい」と最短の10日間で1軍に戻すことを想定していた。結果的には1か月ほどの離脱となったが、中村晃にとってはもう1度、頭を整理する期間となった。「僕には必要だったのかなと思います。体の面でも怪我をしたんですけど、しっかりと考え直して。もう1度頑張ろうと思えた時間だった」と、少しずつ気持ちは前を向いた。

 背中痛から実戦復帰したのは9月5日。ウエスタン・リーグのオリックス戦(タマスタ筑後)だった。筑後に視察した小久保監督とも言葉を交わした。前半戦、自分の姿を見てくれていた指揮官。胸中は見透かされていたようで、「筑後に来られた日に話をさせていただいて、監督もなんとなく『覚悟ができたら来い』みたいな感じでした」。首脳陣の腹は決まっている。あとはもう、中村晃が決意を固めるだけだった。「それができたので、いかせていただきました」。9月7日に再昇格となった。

 まさに、自分の姿が試されたようなシーズン。指揮官の「言い訳しない、人のせいにしない、環境のせいにしない」という言葉についても、「僕の中では結構、怠け者体質というか。すぐに逃げるタイプなので」と笑いながら謙遜する。その上で、「確かに、そういうシーズンだったと思います。少しは成長できているのかなって思いますけどね」。レギュラーシーズンが終わった今、少しだけ肩の荷を降ろして話すことができた。

 これまで残してきた実績と人柄。中村晃の周りにはいつの間にか輪ができて、チームリーダーと呼ばれるようになった。一方で、今季に関しては自分のことに集中したシーズンでもあったはずだ。「僕はチームリーダーではないと思いますよ。リーダーはやっぱり柳田さんだったり、健太だと思います。人は集まってこないので、僕のところには(笑)」。栗原陵矢内野手や柳町達外野手ら、自分を慕って自主トレに来てくれる後輩がいることが、全てを証明している。足元を見つめて笑う中村晃は、やはり言い訳をしなかった。

(竹村岳 / Gaku Takemura)2024.10.10