中村晃が本気で考えた現役引退…覚悟を決めた愛妻の“返事” 苦しみ、悩んだ9月の出来事

ソフトバンク・中村晃【写真:竹村岳】
ソフトバンク・中村晃【写真:竹村岳】

鷹フルの単独インタビュー…2024年シーズンを振り返ると「チームの優勝が一番」

 鷹フルは、ソフトバンク・中村晃外野手の単独インタビューを行いました。全5回を、5日連続でお届けいたします。難しい役割をチームから求められた2024年。どんな胸中で、レギュラーシーズンを過ごしていたのでしょうか? 苦しかった夏場、家族に打ち明けたのは現役引退の選択肢でした。もう1度、戦う覚悟を呼び起こしてくれた愛妻の“返事”とは――。

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「チームが優勝できたことが一番です」。率直にシーズンを振り返る。4年ぶりに掴んだリーグ優勝。ビールかけを味わった時も、「何度やってもいいことですね」と笑顔で語っていた。個人成績は、101試合に出場して打率.221、0本塁打、16打点。「自分の成績が良ければなおさら良かったのかなと思いますけど」と、納得はしていなかった。

 代打に加えて、時にはスタメン出場という簡単ではない役割を任されてきた。それでも「難しいとはあまり言いたくないです」と、首を横に振る。「全てにおいて、いい勉強をしたなと思います。代打であったりとか、ベンチから見えることが多かったりしたので、そこがすごく今までにないというか。若い時があって、レギュラーになって、またさらにこういう立場になったのは、そこで勉強していった感じです」と前向きに捉えているところが、中村晃らしかった。

 小久保裕紀監督は「ここ一番で絶対に中村晃」と、常に試合の重要な場面を託し続けてきた。代打とは、終盤のチャンスで打席を与えられれば、試合の勝敗をも左右する大事な仕事だ。責任感の強い男は、重圧に向き合うことに勇気を奮い立たせるほど、苦しんでいた。

「なんか、自分で(責任を)重くしちゃっている感じはすごくありました。打席に向かう時も『ここで打たないと』って思うので。どんどん自分で重たくしてしまっていたなと。そこはちょっと、シーズンが進んで変わっていきましたね。リハビリに行って、上がっていく時に、もうちょっと自分で上手く解釈して打席に立てればいいんじゃないかと思っていました」

ファーム戦で復帰したソフトバンク・中村晃【写真:竹村岳】
ファーム戦で復帰したソフトバンク・中村晃【写真:竹村岳】

 背中を痛めたことで、8月12日に出場選手登録から抹消された。その直後に体調不良も重なったが、少し1軍から離れたことで、自分で自分を追い込んでしまっていたことに気がついた。自分にプレッシャーをかけ続けたことが背中痛と、発熱という形で体にも表れた。「ストレスは誰にでもあるので。ただ僕は朝ごはんを食べている時に、立ちあがろうとしたら“ビキッ”てしたっていう。野球は関係ない(時)っていうね」と笑うが、今となれば「神様が与えてくれたんですかね」というほど、冷静になるための貴重な時間となった。

「必要な時間だったのかなと思いますけどね。もう1度、頑張ろうという気持ちにさせてくれた時期だったので。心がめちゃくちゃ元気だったら、もうちょっと早く復帰できていたのかもしれないですけど。ちょっと時間がかかるなと(当時も)思っていました」

 結果的に再昇格したのは、9月7日。体調不良も影響したが、小久保監督が「10日で戻す予定にしている」と言っていた中で、想定以上に時間がかかったのは気持ちの整理が必要だったから。誰よりも中村晃自身が、1軍の重圧に飛び込む覚悟を決めないといけなかったからだ。「自分の中で腹を決めて打席に立つには、今じゃないのかなと思っていたので。あまり良くないんですけど、時間をちょっともらっていました」と舞台裏を明かした。代打という一振りの稼業で、とにかくチームの力になりたいからこそ、重圧に立ち向かった。

 結果が勝負の世界。背負うものは重く、時には苦しくも感じた。弱音を吐くことも、今年に関しては「全然ありました」と言う。一番近くで支えてくれる家族に対して、現役引退について打ち明けた。

「それこそ『辞めようかなと思っている』って言ったりもしましたね、今年は。いろんなことがありましたね」

 ユニホームを脱ぐ選択肢が頭に浮かぶほどにまで、辛かった。9月4日には、第1子となる男児が誕生したと球団から発表された。妻に激白したのは、その直後だったそうだ。「これはね……。どうなのかなとも思うんですけど、子どもが生まれた時にその話をしたんですよ。それどころじゃないですよね……。でも、その時期にはそれくらい考えていました」。新しい家族が増えて、愛妻も大変な時だった。それでも、自分の辛さを、真っすぐに受け止めてくれた。一緒に背負おうとしてくれた。

「妻は、『絶対に後悔するよ』と言っていたので。その言葉で、踏みとどまったというか、もうちょっと頑張ろうとなりました」

 1軍に舞い戻り、最初にスタメン起用されたのは9月11日の楽天戦(楽天モバイルパーク)。5打数3安打を放ち、勝利に貢献した。9月&10月は打率.310と、ラストスパートにも貢献した。何度も、何度も気持ちが折れかけた2024年。中村晃を支えてくれたのは、愛する家族の存在だった。

(竹村岳 / Gaku Takemura)