4球団競合のドラ1と育成…初めての出会いはドラフト2週間後だった
“雲の上の存在”が、明確に「目の前の敵」へと変わった瞬間だった。8月30日のロッテ戦(ZOZOマリン)。石塚綜一郎捕手と佐々木朗希投手は同じグラウンドに立っていた。ともに岩手県内の高校で3年間、白球を追った2人。人生初対戦は“ニアミス”に終わったが、石塚の胸には特別な感情が宿った。
30日の試合、7回2死二、三塁で打席には甲斐拓也捕手が立った。カウントが3ボールになると、石塚の覚悟が決まった。「ツーアウト満塁になったら(代打で)行くぞと言われていたので」。マウンド上には佐々木朗希。「3ボールまでいって『これは来るな』と思ったんですけど……」。結果的にフルカウントから甲斐は三飛に終わり、3アウトチェンジ。佐々木はこの回限りでマウンドを降りた。
2019年のドラフト会議から約2週間後、黒沢尻工高からホークスに育成ドラフト1位で指名された石塚は、大船渡高に向かう車の中にいた。「当時の(黒沢尻工高の)部長さんに『同じ岩手で顔を合わせていないのはどうなんだ』と言われて……。連れて行ってもらいました」。それが佐々木との“出会い”だった。
「あっちは4球団競合のドラフト1位。レベルが違いすぎて、本当に雲の上の存在みたいな感じでした」。黒沢尻工高から大船渡高まで車で往復4時間。佐々木とグラウンドで話せたのは30分だけだった。「めっちゃデカかったですね。でも細かったです」。それが剛腕を見た第一印象だった。
高校3年間で対戦は1度もなかった。「大会は全部、反対ブロック。決勝で当たるか当たらないかって感じだったけど、最後まで戦えなかったですね」。ホークス入団後は取材で佐々木のことを聞かれることもあったが、現実感は全くなかった。
「佐々木朗希と対戦があったらとか言われましたけど、実感ってわかないじゃないですか。自分は育成でしたし、対戦することはないだろうな……くらいの感覚でした」。その思いが変わったのが、5年目を迎えた今季だった。
3月9日にZOZOマリンで行われたロッテとのオープン戦。短い時間ではあったが、佐々木と言葉を交わした。「明日投げるから、みたいな。本当にそれくらいでした」。当時はまだ育成ながら、1軍に帯同していた石塚。翌10日の試合でも対戦機会はなかったが、一気にプロでの距離が近づいた。
そこから半年が経った今、石塚は戦力として1軍にいる。今後、佐々木との対戦が訪れる可能性は十分にある。「1軍の選手でもなかなか打てないピッチャーなので。そこを打たなきゃいけないんだなって。テレビで見ていて『すごいなー』と思っていたのが、次は打たなきゃいけない。そこが一番ですよね」。
同じ県内の高校だったにもかかわらず、なぜか交わることがなかった2つの線。きらめくような輝くを放つ幕張の剛腕との対峙を、石塚は楽しみに待っている。
(長濱幸治 / Kouji Nagahama)