戦力外から拾ってもらった恩…支配下に「ホークスでなりたい」 鍬原拓也が狙う“最後の1枠”

ソフトバンク・鍬原拓也【写真:飯田航平】
ソフトバンク・鍬原拓也【写真:飯田航平】

巨人を戦力外…鍬原拓也がホークスで狙う支配下返り咲き

 ソフトバンクは24日に育成選手だった中村亮太投手、三浦瑞樹投手、前田純投手、石塚綜一郎捕手と支配下選手契約を結んだ。これで支配下登録枠は69人となり、残る椅子はあと1つに。シーズン中の支配下選手登録に向けて、育成選手たちに残された時間はわずか。その1人、鍬原拓也投手が素直な心境を明かしてくれた。

「4人が支配下になったからといって70人枠いっぱい埋まったわけじゃない。別に落ち込むというよりは、あと1枠を狙いに行く気持ちでこの1週間を過ごそうかなって」。その言葉に迷いはなく、視線は真っすぐ、前だけを向いていた。

 鍬原は昨季で巨人を戦力外となり、育成選手としてソフトバンクに入団。前半戦は2軍で20試合(27回1/3)に登板し、4勝0敗2セーブ。防御率1.98と結果を残した。先発した1試合以外はすべて中継ぎでの登板だったが、勝ちに繋がる好投が光った。ただ、前半戦を終えた段階での支配下選手登録は叶わなかった。

 24日の朝、4選手の支配下登録を報じる記事が目に入った。「『おお!』ってなって『あと(枠は)1個か』みたいな感じです」と、その瞬間を振り返る。気落ちしてもおかしくない瞬間だが、鍬原は「そこは難しいんですけど、自分ではそう思わないようにしてるというか……。でも、人間なので内心は、5枠あったうちの4枠が一気になくなったのでやっぱり焦りは……」と本音も溢れる。

「今までの前半戦の積み重ねが、あの子たちが支配下になった理由だと思う。僕はそこにまだ足りない部分があったからなれなかったわけで、じゃあ何が足りなかったのかなっていうふうに思ったんです。支配下になっている子に比べて、自分はどういう部分が足らなかったから、なれなかったんだろうって、その時ふと考えましたね」。鍬原にとって自身を見つめる時間になった。

 今季は様々な役割をこなし、アマチュア時代や巨人時代を含め、先発、中継ぎ、ロングリリーフとあらゆるポジションの経験がある。「同じ能力ってなった場合、若い子を取るのは当たり前じゃないですか。だから、そこは僕が突き抜けられなかった部分があるんで、仕方ないなと思います。落ち込むっていうよりは、あと1枠を狙いに行こうっていうふうにすぐなりました。落ち込んでる暇はないので、すぐに切り替えられたかな」。今回の4人に入れなかった要因を自分なりに理解している。

 自らを顧みつつも、支配下選手登録された4人には「もう会った瞬間『おめでとう!』って言いましたよ。いや、それはうれしいですよ、やっぱり。あの子たちが頑張って掴み取った結果なんで、そこは素直にうれしい」。後輩たちの努力が報われたことを全力で喜ぶ。「これが勝負の世界ですから。別にそこに関しては、僕が負けただけ。負けたっていうか、まだ1枠あるんで。彼らはまず1軍に行けるスタートラインに立ったんで、そこはすごく嬉しく思います。僕はまだ立ててないので悔しさはもちろんあります」。当然、プロとしての意地も闘志もある。

 7月31日までは残された時間は少ない。「この3試合でしょうね。3試合がもう最後、ラストチャンスかなと僕も思ってる。この3連戦で投げるチャンスがあれば、最後の望みにかけて投げたい」。26日からのくふうハヤテ戦(タマスタ筑後)。初戦の9回にマウンドに上がった鍬原は1回2安打1失点。力強い気持ちの乗った直球からは、この登板に賭ける思いがひしひしと伝わってきた。鍬原は言う。「僕はホークスに拾ってもらったので、ホークスで(支配下に)なりたいです」。強く優しい男は、野球人生を掛けた恩返しを誓う。

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)