心の不安を解消してくれたのは、偉大な大ベテランからの“衝撃的”な助言だった。思いのほか、長くなってしまったリハビリ生活を経て、尾形崇斗投手がさらに強く、逞しくなって帰ってきた。右肩のコンディション不良でリハビリが続いていた右腕は、6月9日の3軍戦で今季初登板。同12日のファーム交流試合・オイシックス戦で2軍戦に復帰した。
2軍では復帰戦を含めて4試合に登板。徐々に状態を上げており「1試合ずつ、体の方も問題なくちゃんと無事に投げられて連投までクリアできたので、次はしっかりイニング跨ぎすることを目標に取り組んでいます。イニング跨ぎをクリアできたら、いつでもトップチーム(1軍)の方に行ける状態ではあるので、あとは細かい課題などに取り組んで、もっと良くなるようにしていきます」と語る声も明るい。
20日の阪神戦(鳴尾浜)で、直球は最速156キロをマークした。「スピード自体も1試合ずつ、ちょっとずつ速くなっています。でも、まだ指にかかっていないので。ちょっとボールの芯を捉えられてないんで、リリースでそこを捉えられるようになったらもっと良くなるかな」。まだしっくり来ていない中での156キロ。万全ではない状態で高いパフォーマンスを発揮しているという点では、今後が非常に楽しみだ。
春季キャンプ後に右肩のコンディション不良を訴えた。ハイペースが祟ったこともあり、一度、ペースを落とすことになった。ただ、当初の見立てよりもリハビリ期間は大幅に長引いた。「かなりメンタル的なブレ、上下はありました」。リハビリ期間の心境をこう振り返る。日頃から前向きな言葉を発し、明るく振る舞い、黙々とトレーニングに励んでいたが、心中は穏やかではなかった。
そんな尾形の心を楽にしてくれたのが、偉大なるベテラン・和田毅投手の言葉だった。「お風呂場で一緒になった時、和田さんに相談したんです」。これまでに数々の経験をしている和田に、怪我をした時にどんな意識で練習に取り組んでいたのか、質問をぶつけた。その答えは意外なほどに「しっくり来る」ものだった。
「『帰ってきた時に衝撃的なボール投げてやろう』っていうふうに思えばいいんじゃない?」
なかなか状態が上がらず、苦悩していたタイミングで響いたこの言葉。「実質、半年間、自主トレをしているみたいなものなので、その時間を上手く使わずに戻ったら、チームに迷惑かかるじゃないですか。だから、そこを上手く使って、もっと良くなってトップチームに合流したい」。決して順調ではなかったリハビリ生活を経験し、先輩の言葉に突き動かされて尾形は前を向くことができた。
尾形も高卒7年目を迎えて25歳になった。守護神のロベルト・オスナ投手という“師匠”もいれば、慕ってくれる後輩も出来た。リハビリ期間中は若手育成選手たちに声を掛けたり、アドバイスしたりする姿もよく見られた。「オスナっていう自分のお手本というか、道がある。今は(近くに)オスナがいなくても、いい環境でみんなで高め合って行きたい。そんなタマスタ筑後にしたいって思っていて」。自身もコンディションを上げていくのに大変な中で、幅広い視野で物事を捉えていた。
後輩に質問された時には、熱心にその選手の映像を見て、気付いたことを伝えてきた。良い所を探したり、自身が教えられることは親身になって教えたりした。さらに自身もそこから学ぼうとしてきた。
「後輩とかじゃなくて、1人のピッチャーとして、いいところを吸収しようとしています。そういうウィンウィンの関係じゃないですけど、もっともっとレベルの高いものにして行きたい。みんなの知識を使って話し合うことで気付くこともあれば、下の子から学ぶこともあるし、聞かれたらもちろん教えるし。多分強いチーム、強い組織ってそういうものなんじゃないかと思っています」
オスナとの師弟関係から学んだことはもちろん、苦しいリハビリ生活を経て、尾形は身も心も確実に成長した。
「やっぱり1軍って最高の舞台。まだまだ自分はそこに行っていない、呼ばれていないので、今はそれ以下のレベル。いち早くトップチームに行ってトップレベルの選手たちと一緒にやりたい。ホークスの中継ぎ陣って日本の中でもトップクラスだなと思う。そういう選手と早く競って、いい刺激を受けたいし、自分もそこに入っていい刺激を与えられるようにやっていけたら最高ですね」
チームメートへのリスペクトと、競争の輪にいち早く加わりたい思いが溢れ出る。尾形が1軍のブルペンに加われば、さらに“良いチーム”になるはず。首位を走るホークスにまた新しい刺激を与えてくれる。