昇格即先発した正木が今季初安打を含む2安打1打点の活躍
打球が中堅に抜けたのを確認すると、小さく右手を握った。大歓声を受けながら、正木智也外野手が一塁ベース上でホークスベンチに向けてこぶしを挙げた。約2年ぶりとなる感触は最高のものだった。
リーグ戦再開となった21日のロッテ戦(北九州)。この日、出場選手登録されたばかりの正木が「6番・左翼」で先発に名を連ねた。初回に1点を先制し、なお2死一、三塁で小島のチェンジアップを中前に運んだ。今季初安打は約2年ぶりの適時打。苦しみの日々を乗り越え、ようやく生まれた。
「この試合にめっちゃかけていたんで。自信はあったんですけど、それと同じくらい不安もあった。1本(安打が)出て、すごくうれしかった分のガッツポーズでした」
普段は冷静でも、興奮を抑えきれない様子だった。自身とともにヒーローインタビューを受けた廣隆太内野手は慶大の2学年後輩、ここまで打率.351をマークしている柳町達外野手は2学年先輩。「慶応トリオ」の一員として、これ以上遅れを取るわけにはいかなかった。
「(2人の活躍に)焦りはなかったんですけど、一緒に活躍したいとずっと思っていたので。あの2人が先に(1軍へ)上がってたんで、後は僕だけだなと思って必死にやっていました」
今季は4月上旬に1軍昇格したが、選手層の厚さもあって代打での2打席のみで登録を抹消されていた。小久保監督からは「なかなか使ってやれずにゴメン」と謝罪も受けたという。もどかしさは胸にしまい、黙々とバットを振ってきた。
ルーキーイヤーの2022年は打率.254、3本塁打を記録するなど、将来の主砲に向けた足掛かりとなる1年になるはずだった。しかし、昨季は開幕戦で5番を任されたものの、極度の不振に陥った。結局、30打席に立って放った安打はわずかに1本。打点1も適時打で挙げたものではなかった。
「勝負弱い」というレッテルはなんとしても外したかった。「昨季までは得点圏で回ってくるとちょっと委縮してしまった部分もあったんですけど。今回はチャンスで『回ってこい、回ってこい』と思えたので。そこは成長したかなと」。正木にとって、この日の一打は何より大きかった。
4年目を迎えた24歳にとって、今季は今後を左右する大きな1年となることは間違いない。苦しみ抜き、再び1軍の舞台に戻ってきた慶応トリオの“次男”が、たくましい姿を見せつける。
(長濱幸治 / Kouji Nagahama)