”師匠”オスナに「バチギレされた」 尾形崇斗が制御できなかった出力…リハビリ組入りの真相

ソフトバンク・尾形崇斗(左)とロベルト・オスナ【写真:竹村岳】
ソフトバンク・尾形崇斗(左)とロベルト・オスナ【写真:竹村岳】

「全然、痛みとかはなかったんですけど、おかしいなと思って…」

 尊敬してやまない師匠に「バチギレされた」。怒らせてしまった反省と学びが、さらなる原動力となっている。

 まさかの離脱となってしまった。春季キャンプ中から猛アピールを続けていた尾形崇斗投手だ。コンディション不良のために春季キャンプ終了後にリハビリ組に合流し、現在は調整している。

 話は2月24日に行われた台湾・楽天モンキーズとの練習試合へと遡る。5回に登板した尾形は1イニングを3者凡退に片付ける好投を見せた。早い仕上がりにキャンプ中も一度ペースダウンをしたにも関わらず、球団のスピードガンで最速154キロをマークするなど、投手陣の中でも抜群の存在感を発揮していた。

 ところが、尾形はこの時に異変を感じた。

「最後に投げたスライダーが、インハイに投げ切れるメカニックをしていたのに、真ん中低めに抜けちゃって。全然、痛みとかはなかったんですけど、おかしいなと思って……。そうしたら、次の日、動きが良くなかったんです。寒い中、出力が出過ぎてたっていうのもあったし、倉野さんに話をしてみたら、ペースをちょっと落としてみようかっていう話になったんです」

 どこか強く痛めたというわけではない。出力が出過ぎて右肩に張りが出たこともあり、ハイペースになっていたペースを再びダウンするためだった。尾形はそのことを師と仰ぐロベルト・オスナ投手に報告した。すると、オスナからは「バチギレされた」というのだ。

「オスナにはずっと気温が低いから150キロ以上は出すなって言われていたんです。それでも、僕、97マイル(約156.1キロ)とかを出していたんです。そうしたら『俺の言うこと聞いてない』みたいな感じで怒られて。そこで、自分のペースを管理できていなかったと気付かされました。オスナには本当に厳しい口調で言われて、自分でも良くなかったなって反省しました」

 アピールしなければいけない立場で、力が入ってしまうのも当然ではある。それでも、もう一歩手前で己を制御できたのではないか――。自分の中でも、かなり出力が上がっているのは分かっていた。その出力に耐えられないわけではないが、出力を全開にさせる時期が早すぎた。

 オスナにはこれまでに肘や肩の故障歴があり、尾形もその経験を伝えて聞かされてきた。「それを聞かなかったわけじゃないですけど、制御できなかった自分が良くなかったとすごく反省してます。ただ、長引く怪我ではないので、もっといい身体にして帰ってこようっていう、その切り替えはできています」。叱責に反省しつつも、それを糧にしてコンディション向上に努めている。

 3日間のノースロー期間を経て、7日からスローイングも再開した。「上手くいけばいいなと思ってますけど、そこは焦らずにしっかりペースマネジメントできるようにしていきたい」。かつては、雄叫びをあげる投球スタイルと同様に、何事にも全力投球だった尾形も「『頭を使え』ってずっとオスナに言われているので」と、冷静さを失わぬよう心がけてきた。今回はその判断を誤ってしまったが、オスナの教えは心身に生かされている。

 尾形はオスナの存在を「ワールドクラスの選手を目指すにあたって自分の方向性を確実に示してくれる、そういう存在です」と表現する。“師匠”という言葉には収まりきらない。「もうその域は超えています。ただ今回すごく怒られて『お前はもういい』みたいな感じで、ちょっと今、突き放されてるんで。もう1回オスナに信頼してもらって、いい関係でもう1回会えるように、しっかり練習してリカバリーしてやっていきたいです」と誓う。

 かなりキツい口調で怒られたというが、それほどまでに自分のことを思ってくれていたのだと知れたことも嬉しかった。「まずはベストで投げる状態をいち早く作るってことで。開幕に間に合う可能性も十分にあるし、でも、そこに間に合わせるためにやってるわけでもないっていう……。もっといい自分を作るためにこの期間を作っているので、しっかりまたいい状態でレベルの高いバッターと戦えるように準備していきたいと思います」。戦列を離れているものの、尾形は最善の準備を続けている。

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)