「巨人の顔になってください」 甲斐野央が高橋礼と泉圭輔に伝えた心からのエール

甲斐野央(中央)が巨人への移籍が決定した2投手について語る【写真:竹村岳】
甲斐野央(中央)が巨人への移籍が決定した2投手について語る【写真:竹村岳】

受け止める球団の覚悟「優勝するため、日本一を取るための戦略だと思う」

 寂しさは覚えつつも、心からのエールを送った。ホークスと巨人の間で成立した高橋礼と泉圭輔の2投手とアダム・ウォーカー外野手の交換トレード。ホークスを去ることになった両右腕とチーム内でも特に仲が良かったのが甲斐野央投手だ。

 トレードが発表になった7日、高橋礼と泉は投手陣が秋季キャンプを行うファーム施設「HAWKS ベースボールパーク筑後」に挨拶に訪れた。甲斐野はそこで2人と言葉を交わし、そして甲斐野なりに全力のエールを伝えたという。

「寂しいは寂しいですけど、『ジャイアンツでめちゃくちゃ人気の選手になって下さい』っていう話をしました。容姿もそうですし、実力でもそうですし、『マジで(ジャイアンツの)顔になって下さいよ』っていう話をして、僕も頑張りますね、ぐらいです。寂しいとは(直接は)言わなかったです」

 多くの時間を共に過ごしてきた2人の移籍が寂しくないはずがない。巨人に求められての移籍は2人にとって大きなチャンス。甲斐野は「もちろん寂しいですよ」と言いつつも「今日でも会えるんじゃないかなって思ったりするんですけど。寂しくなったらフェイスタイムしようかなと思います」と、笑顔で2人を送り出した。

 甲斐野にとって高橋礼は1学年上の先輩。2017年のドラフト2位で高橋礼が、2018年のドラフト1位で甲斐野が入団した。「僕が1年目の時、礼さんは先発でしたけど、よくご飯とかに連れて行ってもらいました。新人王争いもさせて頂いた方なので、僕としてはすごく刺激のあるいい先輩でした」と、思いを馳せる。

 2019年シーズン、甲斐野は新人ながら中継ぎとして65試合に登板し、チームの日本一に貢献した。一方、2年目だった高橋礼は開幕からローテーション入りし、12勝をマーク。新人王争いは2人の一騎打ちとなり、結果的には2年目の高橋礼に軍配が上がった。甲斐野にとって高橋礼はハイレベルな競争を演じた戦友でありながら、可愛がってもらった優しい先輩だった。

 泉とは同期入団で共に大卒でプロ入りした同級生。“96年組”の中でも特に仲が良く「よく家に泊まったり、泊まってもらったりした仲です。僕の家族とも仲良くて、僕の子どもも可愛がってくれてたし、いい同級生だったなと思います」という。互いの家を行き来し、家族ぐるみでの付き合いだった。

 甲斐野、泉のほか栗原陵矢外野手や笠谷俊介投手、松本裕樹投手、藤井皓哉投手、野村勇内野手ら同級生が集う「96年会」の仲の良さもファンの間でよく知られてきた。その中でも泉は「ご飯の予約から何から何まで」とマネージャー的な役割として欠かせない存在だっただけに「引き継ぐのは笠谷か(野村)勇っすねー。僕はやらないです。僕はついていくタイプなので」と、寂しさは募る。

 ただ、トレードや戦力外はプロ野球界での常。甲斐野自身もその現実を冷静に受け止めている。高橋礼、泉のトレードのみならず、このオフ、ホークスは大ナタを振るってきた。師匠として慕ってきた森唯斗投手をはじめ、共に戦ってきた仲間たちがチームから去ることになった。

 球団の改革に甲斐野自身も感じることはある。「変わりつつあるのかなと。もちろん(変化が)形として出ているので。優勝するため、日本一を取るための戦略だと思う。それほどの思いが球団側にあるっていうのは自分でもわかっているので、そのピースになれるようにというか……。僕は本当にやるべきことをやるだけ。周りを見られる余裕もないですし、自分のために精一杯やろうと思います」。球団の日本一に対する強い意志を感じているからこそ、甲斐野も自分のことを突き詰めて前に進むしかないのだ。

 今季、46試合に投げた甲斐野はこの秋季キャンプはリカバリー中心のメニューをこなしつつ、課題の洗い出しなど来季に向けた準備を進めている。「僕は僕で自分のやるべきことをやるだけなんで、人が何をしていたかっていうのは全く気にしない。自分のやるべきことをやろうっていうキャンプにしたいなと思ってます」。チームが大きく変わろうとする転換期を実感しながら、この秋を過ごしている。

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)