育成5年目・藤野の現在地
ホークスの将来を担う育成選手に焦点を当てた新コーナー「未来の推し鷹」。今回はファーム・リーグで3年ぶりの本塁打を放つなど、ここまで打率.300を記録している藤野恵音内野手が登場します。昨季は2軍で自己最多の71試合に出場するも、今年の春季キャンプはC組スタート。明かしたのは、同期と酌み交わした“ヤケ酒”でした。そして、気持ちを切り替えるきっかけとなった斉藤和巳2軍監督からの言葉――。22歳の感情に迫ります。
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今春キャンプが始まる直前の1月28日。スマホに映し出された“文字”に愕然とした。「アプリにキャンプの組み分け通知がきたんですよ。ちょっと期待してAを見て、そしたら名前は無くて。それでBを見てもなくて『忘れられているのかな……』と思ったら、C組にしっかり名前があって。『うわあ……』って」。突き付けられたC組スタート。思い描いていた理想とは全く違う現実だった。
戸畑高から2021年育成ドラフト1位で入団し、5年目の22歳。昨オフは2年連続で牧原大成内野手の自主トレに参加し、来たるシーズンに向けて準備を進めてきた。同期と掲げていた目標と、それが崩れ去った夜の出来事――。救いになったのは指揮官の言葉だった。
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続きの内容は
どん底の藤野選手を救った、斉藤和巳監督の「愛ある言葉」
同期と誓った約束が崩れた夜、ヤケ酒の席で交わした会話
牧原大成から学んだ、支配下を掴むための「打撃の極意」
「なんでだろう……って。その日はもう抑えられない感情があったので。親とかにも『C組だった』って電話をして、吐き出したんですけど。それでもその日は気持ち的につらくて。木村(大成)に電話したら『飲みに行こうか』って」
ドラフト同期の木村大成投手とは、オフから「A組でスタートしよう」と度々言葉を交わしてきた。それだけの覚悟を持って臨んだ5年目のシーズンだったが、盟友もB組スタートと目標をかなえることができなかった。藤野は失意の夜を振り返る。「寿司を食べに行ったんですけど、全然胃に入らなくて。その日は2人ともため息をついたりしていて、きょうだけは忘れよう……って遅くまで飲みました」。
気持ちが晴れないまま迎えた1月30日、筥崎宮での必勝祈願が行われた。監督、選手、コーチ、スタッフら全員が顔を揃えた。その日に斉藤和巳2軍監督から呼ばれ、直々に声をかけられた。
「C組スタートだけど、キャンプで実戦が始まったら呼ぶから。しっかりやっておけよ」
自分のことをちゃんと見てくれていると確かに感じられた一言で、ようやく前を向くことができた。「若い選手たちを引っ張っていってくれ」というコーチ陣からの言葉も背中を押した。「心境的には『なんで』という気持ちがやっぱり強かったんですけど、そこで切り替えられました」と振り返る。
牧原大の姿を見て一変したアプローチ
キャンプ中は筑後のホテルを朝7時に出て、夕方6時まで練習メニューを毎日こなした。「こっち(筑後)の方が人数も少ないし、練習もできる。宮崎と比べて移動も少ないので。まだ22歳ですけど、筑後だともうベテランの方だったんですよ。若い選手たちを見て、『俺も頑張らないと』って思ったりもしました」。濃密な1か月間を過ごした。
1月に参加した牧原大の自主トレから打撃のアプローチを変え、シーズンに臨んでいる。「去年まではずっとすり足だったんですけど、今年は追い込まれるまでは思い切って足を上げて、自分の狙っている球を打とうと思って。今までみたいにちょこまか当てるんじゃなくて、ライナー性の良い当たりを打てている。去年とは違うなと思います」。その成果は数字にも表れている。少ないチャンスをものにして2軍で打率.300を記録し、3年ぶりの公式戦本塁打も放った。
「例え結果が出なかったとしても、打席の内容が『今までと違うな』と思わせたいので。これまで当てにいこうとしすぎて、自分らしさがなかった。それじゃ自分は評価されないなと思って。牧原さんの打撃練習をずっと見ていると、追い込まれるまで積極的に振って、えげつない打球を飛ばしている。自分もそこは真似したいなと。参考になることが多かったので、今は意識しています」
2軍では同じ育成の大泉周也外野手、中澤恒貴内野手らが結果を出し続けている。「もちろん意識はします。でも意識しすぎると自分が崩れてしまうので。今は結果よりも打席内容を大事にしています」と足元を見つめる。昨年、春季キャンプC組スタートから支配下登録を勝ち取った山本恵大外野手のように――。「しっかりやっていれば上がれるチャンスはあると思うので」。悲願の2桁番号を勝ち取り、今度は歓喜の美酒をたしなんでみせる。
(森大樹 / Daiki Mori)