“山川穂高の完コピ”を捨てた先にあった変化 中澤恒貴が辿り着いた答え…「あの打ち方じゃないと」

見失っていた自分だけのスイング

 ホークスの将来を担う育成選手に焦点を当てた新コーナー「未来の推し鷹」。今回はファーム・リーグでここまで打率.424と猛アピールを続けている中澤恒貴選手が登場します。八戸学院光星高から2023年育成ドラフト4位で指名され、入団。今季で3年目を迎える中で、中澤選手が取り入れていたのは主砲・山川穂高選手そっくりの打撃フォームでした。しかし、シーズンが始まると“そのフォーム”ではなく、深いトップのまま、高く足を上げる以前の打ち方に戻っていました。なぜ、体に染み込ませてきたフォームをやめたのか。その裏にある20歳の心境に迫ります。

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 悩み抜いた末に気付いたのは、「模倣」が必要なくなったということだった。中澤は今季への足がかりを掴むため、昨オフから山川の元に弟子入りした。その一挙手一投足をなぞるように、打撃フォームまでも“完コピ”して挑んだ今シーズン。しかし現在、ファームの打席に立つ中澤の姿に「山川の影」はない。

「オープン戦からずっと(山川のフォームを)やってきたんですけど、シーズンが始まって一度3軍に落ちたりして。その中でバッティングが分からなくなってきて……」


 春季キャンプ中も、新たな打撃フォームでスイングを繰り返してきた。だがシーズンが開幕し、投手の生きた球を目の当たりにすると、思い描いた打撃をすることができなくなっていた。試行錯誤の末に辿り着いた答えが、師匠のフォームを真似ることからの脱却だった。


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続きの内容は

試行錯誤の末に中澤選手が気付いた「飛距離の意外な真実」
山川選手のフォームを捨てても残った「肉体のある進化」
師匠と離れて確信した、打撃において「最も大切な要素」

「あの打ち方じゃないと、飛距離って出ないのかなって」


 自身にしか分からない感覚を頼りに、中澤はバットを振り込んだ。山川に教わった「右脇の締め方」や「体重移動」といったエッセンスは残しつつ、足の上げ方やトップの位置を、最も心地よいと感じる元のスタイルに戻してみた。すると、形を変えても打球の飛距離は“山川フォーム”の時と変わらないことに気付いた。

 師匠から教わったフォームはこれまで以上の飛距離をもたらしたが、代償となったのは打者にとって最も大切な「タイミング」だった。理想の形を追い求めるあまり、ボールとの距離感が狂い、自分のスイングを見失っていた。

「結局、バッティングはタイミングが一番大事。自分の中で(元のフォームを)試してみたら、あまり飛距離が変わらなくて。『あ、心地いいな』と。実戦で試したら(安打を)2本打てて、タイミングが合う感覚があった。これでやってみようと、今は取り組んでいます」

タマスタ筑後の打席に立つ中澤恒貴【写真:飯田航平】
タマスタ筑後の打席に立つ中澤恒貴【写真:飯田航平】

知らない間に身についていた強さ

 それは単なる「元通り」ではない。山川との過酷なトレーニングを経て、中澤のパワーは知らず知らずのうちに強化されていた。「どういう構え方やタイミングの取り方であっても飛距離が変わらないということは、体の強さも上がってきたのかなと思っています」。

 1軍では山川が「有言実行」のアーチを順調に積み重ねている。「『今年もう1回40本打つ』と言っていたので。僕も教えてもらったことはずっと継続してやっていきたい」。画面越しに山川を見つめる瞳には、対等のい舞台へ這い上がろうとする強い意志が宿る。

 育成3年目、背番号131が直面する現実は甘くない。だが、昨季までの主戦場が3軍だったことを考えると、確かな成長が伺える。「2軍の緊張感でやれていることが、今年はまずプラスです。もう3軍、4軍ではやる必要はないと思うので。支配下になりたい気持ちが一番強いです」。慣れ親しんだ自身のフォームで2桁の番号を掴み取る――。中澤は自身の現在地を噛みしめつつ、力強く前だけを見ている。

(飯田航平 / Kohei Iida)