高卒3年目の長水啓眞…奥村政稔コーチが語る成長の足跡
ホークスの将来を担う育成選手に焦点を当てた新コーナー「未来の推し鷹」。今回は長水啓眞(ながみず・けいしん)投手の登場です。泣くに泣けなかった痛恨の一打、そして「家族の前で浴びたグランドスラム」……。“一球の怖さ”を知った2度の経験が、左腕を成長させました。
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白球は無情にも左翼フェンスを超えていった。脳裏に焼き付いて離れない一球。“プロ初失点”は、家族の前で浴びた満塁弾だった。待っていたのは厳しい言葉だった。「なんとなく投げんな」――。かつて“のんびり屋”だった少年はなぜ、変貌を遂げることができたのか。天国と地獄がたった一瞬で入れ替わる野球の残酷さを知る3年目左腕の足跡に迫った。
京都府舞鶴市出身。日本海が見える小さな街で、小学3年から兄の影響で野球を始めた。京都国際高では2年時に甲子園出場を果たしたが、自身はベンチに入ることができなかった。最上級生となった2年秋以降も、主に背負っていた背番号は11番。「あまり投げていないので、覚えていないですね」。長水は苦笑いで3年間を振り返る。
2023年育成ドラフト8位でホークスのユニホームに袖を通した。前田悠伍投手、藤田悠太郎捕手らとは同学年だ。入団時から長水をよく知る奥村政稔2軍投手コーチは、その人柄について「とんでもなくアホですよ。厳しく怒ったことも何回もあります」と笑い飛ばす。そんな奥村コーチの口から明かされたのは、左腕が2年前に浴びた満塁弾の真相だった。
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続きの内容は
家族の前で満塁弾の地獄。長水啓眞が刻んだ「一球で変わる人生」
奥村コーチが明かす“教育”の日々。130キロ台の少年が150キロへ
「一球で天国か地獄か」高校時代のサヨナラ負けから繋がる支配下への道
試合後のミーティングで告げられた「なんとなく投げんな」
「確か1年目だったかな。あいつ親が見にきている前で満塁ホームランを打たれたんですよ。それまでずっと無失点で抑えていたのに、(満塁のピンチで)なんとなく投げて。『打ち損じてくれ』と思っているのと、割り切ってど真ん中に目がけて気持ちを乗せたボールとでは、全然違うじゃないですか。その時はスッと入った球を捉えられたので。『一球で人生が変わる世界やし、この一球を絶対に忘れんな』という話はしましたね」
ファームでは、試合の前後に密なミーティングを行う。奥村コーチが厳しく言及したのは満塁弾という結果ではなく、その“プロセス”だった。「『意図を理解したうえで気持ちは乗せられたんか』という確認はお互いにして。『なんとなくで投げんな』と言ったのは覚えていますね」。捕手とビジョンをすり合わせ、投じたボールだったのか――。愛媛まで駆けつけた両親の前で浴びた屈辱のグランドスラム。憔悴したような長水の表情が今も忘れられないという。
左腕自身も、この一球を胸に刻み込んでいる。相手は四国IL愛媛。ビジター球場で浴びた一発だった。「結構落ち込みましたね……。『うわ、やっちゃったな』と思いながら投げていました。ファームではあるんですけど、プロってたった一球でこんなに変わるんだなって」。プロ野球選手としてはもちろん、1人の“息子”としてカッコいいところを見せたかった。この世界の厳しさを痛感した瞬間だ。
高校時代に浴びた逆転サヨナラ打「あれは“地獄”でした」
“一球の怖さ”を知った経験は、高校時代にもある。3年春の近畿大会、準決勝の金光大阪戦。1点リードの9回に登板したが、逆転サヨナラ打を浴びてチームは敗退した。無情にも左中間を破った打球は、昨日の出来事のように思い出させる。「あれはまさに“地獄”でしたね。泣きたかったけど、泣けなかった。『打たれた俺が泣いていいんか?』って。その気持ちが一番強かったです」。
3年間でエースナンバーを託されたことはない。控え投手だった左腕にとって、公式戦登板はアピールのチャンスでもあった。「僕はそんなに投げさせてもらえるような存在じゃなかったので。そういう意味でも印象的です」。熱い意気込みとは裏腹に、突きつけられた現実は逆転サヨナラ負け。最終回まで必死にリードを守ったチームメートの気持ちに、応えられなかったことも悔しかった。
「野球はもちろんですけど、ピッチャーって“積み重ね”だと思うんですよね。1つずつアウトを取って、勝ちに近づいていくじゃないですか。急に地獄に落とされることもあるし、逆に一球で天国になる可能性もある。サヨナラヒットを打たれた時は、(勝利まで)あと1イニングだったので。最後の最後に地獄に落とされました」
プロ入り時、直球の最速は140キロにも満たなかった。2年目の2025年には腰痛で長期のリハビリを経験したが、奥村コーチは「離脱する前の6月くらいに、150キロを出したんですよ」と嬉しそうに振り返る。怪我を乗り越えたことで、また頼もしくなった。「あいつは怒られたりしたら顔が真っ赤になるんです。『今テンパってるな』とか見た目ですぐわかるんですけど、最近は投げる姿が堂々としてきましたね」。マウンドで取り乱してしまう左腕の姿は、もうどこにもない。支配下登録を掴み、今度は“天国”を味わってみせる。
(竹村岳 / Gaku Takemura)