野村勇が今宮健太に挑んだ5か月 痛感した“方針”を変える難しさ…開幕ベンチに漏らした本音

開幕戦の試合前練習、今宮健太とノックを受ける野村勇【写真:栗木一考】
開幕戦の試合前練習、今宮健太とノックを受ける野村勇【写真:栗木一考】

目標に掲げてきた開幕スタメンを掴めず「悔しいです」

 決勝点を演出した29歳に笑顔はなかった。大熱戦を終えた後、ポツリと本音を漏らした。「悔しいですね」。野村勇内野手にとって、開幕スタメンを奪うことは重要な目標だった。自らを突き動かしたのは苦しんだ2年間と、妥協なく過ごしたオフシーズン。闘ってきたのは、目には見えない“序列”、そして「今宮健太」という不動の存在だった。

 野球ファンが待ちに待った3月27日。みずほPayPayドームで行われた日本ハムとの開幕戦は、一瞬も目が離せないシーソーゲームとなった。野村に出番が来たのは、同点の8回無死。今宮健太内野手の代打として打席に立つと、古林の150キロを中前に弾き返した。「なんとか間に落ちてくれてよかったです」。その後、牧原大成内野手の犠飛で決勝のホームイン。開幕戦にふさわしい手に汗握る展開の中、持ち味であるバットとスピードを生かして勝利に貢献した。

 2025年はキャリアハイの12本塁打、18盗塁を記録。今オフには小久保裕紀監督から「健太と勝負」と告げられ、開幕スタメンを目標に掲げてここまでを過ごしてきた。今春のオープン戦でも打率.262、2本塁打とアピールしてみせたが、待っていたのはベンチスタート。悔しさを噛み締めながら戦況を見つめた。報道陣の前でもハッキリと思いを口にしたのは、今宮との競争に敗れたということを、誰よりも重く受け止めていた証だった。

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続きの内容は

代打での結果も笑顔なし。野村勇が漏らした本音と“序列”への危機感
「死に物狂い」だった単独自主トレ…明かしていた2026年にかける覚悟
伴コーチが見た変化…「当たり前の基準」が上がっている証拠とは?

単独自主トレしていた1月…明かしていた強い決意

「すごい打ち合いをしていて、その中に入れないのがすごく悔しいという気持ちで試合を見ていました」

 両チーム合わせて6発が乱れ飛ぶ空中戦。プレーボールから、自分もグラウンドに立っていたかった――。それがまぎれもない本音だった。試合が始まると、ベンチの最前に立ちながらハイタッチでナインを出迎える。負の感情を押し殺し、チームのために徹しているようにも見えたが「どうやって試合に入っていこうかなって……。とにかく悔しかったです」。戸惑いを隠せなかったのも、それだけ本気で“3.27”を目指してきたからだ。

 時を遡ること、2か月。滋賀県で単独自主トレを行っていた野村は、そうそうたる決意を口にしていた。「死に物狂いでレギュラーを取りに行きます。ここで取らないとあかんでしょう」。背番号99にとって、2026年はどんな位置付けだったのか。目に見えない“序列”とも闘った過去があるからこそ、開幕戦が最大のチャンスであることもわかっていた。

「どんなシーズンでも、『こいつを使いたい』という方針があるじゃないですか。逆に言えば、そうじゃない選手がポジションを取るのはめちゃくちゃ難しいと思うので。シーズンの最初から、そういう状況(今宮さんとの競争)になっていることがまず大チャンスです」

 2023年からの2年間は守備固めや代走での出場がほとんどで、期間中は1軍でわずか18安打に終わった。“方針”を覆すほど、圧倒的な結果を残すのがどれほど難しいのか――。骨身に染みているからこそ、背番号6との“一騎打ち”という状況は、野村にとって「大チャンス」だったのだ。自身の取り組みに一切の妥協はない。昨秋の日本シリーズが終わってから、この日の開幕まで――。今宮健太という「不動の存在」に、全身全霊をかけて挑んだ5か月間だった。

ベンチの最前でナインを出迎える野村勇【写真:栗木一考】
ベンチの最前でナインを出迎える野村勇【写真:栗木一考】

伴元裕メンタルパフォーマンスコーチが明かした試合前のやり取り

 今宮も意地を見せてオープン戦打率.316と結果を残し、14年連続の開幕ショートを掴み取った。野村自身も2本塁打を放ったが、背番号6との競争に敗れ、“開幕ベンチ”という結果を真っすぐに受け止めた。この日の試合前、練習に励む表情は晴れない。言葉を交わしたのが伴元裕メンタルパフォーマンスコーチだった。「悔しがっていましたね」。そんな言葉とは裏腹に、精神面における“成長”も感じ取っていた。

「『悔しいです』というのは、僕も本人の口から聞きました。だけどそれは彼の中で“当たり前の基準”が上がっている証拠ですし、前向きなこと。『そのレベルまで来たね』っていう話はしました」

 唇を噛み締めたのは、真っ向勝負を挑んだ証。悔しさを原動力にできれば、必ず未来を変えられる。その手助けを、伴コーチもしていくつもりだ。3時間11分に及んだ日本ハムとの開幕戦。野村が帰路に就いたのは午後11時だった。「またあしたから頑張ります」。そう語る表情からは、また熱い決意が伝わってきた。

(竹村岳 / Gaku Takemura)