「投げるのが怖い」から1か月…大野稼頭央を強くした叱咤「引きずったらぶっ飛ばす」

阪神戦で先発し無失点ピッチングを見せた大野稼頭央【写真:森大樹】
阪神戦で先発し無失点ピッチングを見せた大野稼頭央【写真:森大樹】

2月28日のB組練習試合で浴びたグランドスラム

 グラウンドに舞った白い粉塵が、自身への不甲斐なさを物語っていた。満塁弾を浴び、ロジンを叩きつけたあの日――。大野稼頭央投手は絞り出すような声でこう漏らした。「投げるのが怖いです。今が一番底だと思います」。あの悲痛な思いから1か月が経ち、左腕はタマスタ筑後のマウンドに立っている。指先から放たれたボールには、迷いが一切感じられなかった。絶望を味わった後、どのようにして“恐怖”を振り払ったのか。

 21日に行われたファーム・リーグの阪神戦(タマスタ筑後)。左腕にとっては今季初の公式戦だ。小気味いいテンポでアウトを積み重ね、6回2/3を投げて無失点の快投を演じた。「前までは全部完璧にしようとしすぎていて、それが逆にもたついたり空回りしたりするところがあったんです。今は自分の武器を最大限に活かす。それだけに集中してやっているのが良いのかなと思います」。充実感に満ちた顔つきは、心から野球を楽しんでいる証だった。

 春季キャンプ中、大野は絶望の底にいた。紅白戦では2戦連続で失点を喫し、2月28日に行われたB組の練習試合では満塁弾を浴びた。2回4失点という結果以上に、痛感させられたのは自分の弱さ。マウンドにロジンを叩きつけ、胸に残ったのは「投げたくない」という感情だった。目を赤くし、悔しさを刻み込んだ登板から1か月――。左腕の現在地に深く迫った。

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続きの内容は

「投げるのが怖い」大野稼頭央が語る“1か月後”
愛ある叱咤「引きずったらぶっ飛ばす」の真意
中学時代から憧れた今中慎二、2球種への“原点回帰”

奥村コーチから「引きずっていたらぶっ飛ばすぞ」

「今は自信を持って投げられていますし、怖さはもうありません。『俺はもうこれだけやっているぞ』と思えていますし、今はそこが一番ですね。それだけのものを持って、試合に臨んでいると思います。ボールの質が戻ってくる兆しも見えてきました」

 立ち振る舞いを反省した一戦。試合後には斉藤和巳2軍監督から「ダメならまた頑張ろうや」と声をかけられ、奥村政稔投手コーチには“厳しい愛情”がたっぷりと詰まった言葉をもらった。「引きずっていたら、ぶっ飛ばすぞ」。周囲の支えを感じた瞬間。その感謝は、今も左腕を強く突き動かす。「今思えば、あの日は最悪でしたけど、いい一日だったのかなって」――。

 3月21日の阪神戦、試合前には牧原巧汰捕手と入念な打ち合わせを行った。自分の課題をしっかりと伝え、打者の傾向を頭に叩き込む。その姿勢に奥村コーチは“進歩”を感じ取っていた。「調子が悪いピッチャーって、フォームを変えちゃうのが『あるある』なんです。やっと“戦う顔”ができるようになってきましたね」。打者との対戦に意識が向き始めたことで、大野の顔つきにも21歳らしい笑顔が戻ってきた。

「いい意味でアホになれるというか、もともと自分は明るさと元気が取り柄なので。練習していても、どこかしら奥村コーチの声って聞こえてくるじゃないですか。あの人が育成だった時(2023年)に僕はルーキーでしたけど、めちゃくちゃ引っ張ってくれたのは覚えています。自分もそういうタイプだと思いますし、しんどい時でも声は出していきたいです」

集合で笑顔を見せる大野稼頭央【写真:竹村岳】
集合で笑顔を見せる大野稼頭央【写真:竹村岳】

キャッチボールの“比率”から見直し「僕はその2球種なので」

 技術的にも、基本から徹底的に見直した。最大の武器は、ひるむことなく投げ込むストレート。そして中学校の時から自身の投球を支えてきたカーブだ。「今はキャッチボールも基本的には真っすぐとカーブにしています。僕のピッチングスタイルはその2球種なので。試合でそういう組み立てをするために、練習から意識していました」。鹿児島県の奄美大島出身。足元を見つめ直す中で、自然と思い出したのは自らの“原点”と呼べる日々だった。

 初めて変化球を覚えたのは中学2年の時。画面越しに憧れたのは、元中日で通算91勝を挙げた左腕の今中慎二氏だ。「とにかく、大きく曲がる変化に憧れたんですよね。中学のころなんて、トラックマンもラプソードもないじゃないですか。だからYouTubeで、見よう見まねでカーブの練習をしていました」。“遊び”のような気持ちを忘れず、指先にボールを抜く感覚を染み込ませた日々。今思い出そうとしている純粋な気持ちこそ、大野が追い求めていたものだ。

「当たって砕けろ、じゃないですけど。ダメだったらまたやり直せばいいので。今はいい意味で、軽く考えられるようになってきたのかなと思います」。味わった絶望は、大野を確かに強くした。目線を上げて語る表情は、向上心と希望に満ちている。

(竹村岳 / Gaku Takemura)