2月22日の侍ジャパン戦で6失点「実力がない」
「野球……。野球って楽しかったよな?」。“ドツボ”であることを打ち明けてから1か月が経った。前田悠伍投手は今、何を感じながら日々を過ごしているのか。少し時間が経ったからこそ振り返ることができる、侍ジャパンとの一戦。滋賀から駆けつけた父親の言葉に「ほんま言わんといてくれ」と背を向けた夜――。暗闇の中で“光”を見出そうとしているのは、ノートに記されていた大先輩の金言だった。エリート街道を歩んできた左腕が味わう、苦悩から再生までのストーリーを紐解く。
昨年12月から千賀滉大投手のもとで自主トレを行い「誰よりも練習した」という自信を胸に、宮崎へやってきた。フォーム面で試行錯誤が続くが、時間は待ってくれない。競争の渦中に身を置き、2月22日を迎えた。野球日本代表「侍ジャパン」を相手に、1回2/3を投げて7安打6失点。「実力がなかったです」と、厳しい結果を真っすぐに受け止めた。自身の状態を「ドツボ」とすら表現した“挫折”の春季キャンプだった。
3月にはオープン戦での先発予定も控えていたが、体調不良で登板を回避。その後はリハビリ組に合流し、2軍戦のマウンドに上がれるまでに状態は回復した。「大好きな野球を楽しもうって決めました。結果は絶対についてくると思って、これからまた頑張っていきたいです」。そう語ってから1か月。左腕がありのままの現状を語った。
会員になると続きをご覧いただけます
続きの内容は
侍戦6失点「投げていて気持ち悪い」左腕の告白
父に放った「ほんま言わんといて」図星だった夜
今永昇太のノートに見つけた“復活の兆し”
図星を突かれた父親の言葉「ほんま言わんといてくれ」
「正直、毎日が試行錯誤ですね。メンタルは上下があるかと言われたら全然ないですけど、技術面で上手くいかないことが多くて。ノートを見返しながら、考えてはやっているんですけど……。今、投げていてもめっちゃ気持ち悪いんですよね。侍の時も『もちろん抑える、目立ってやる』という気持ちでした。でも、先頭打者の近藤(健介)さんに1球目を投げた時に『あれ、やっぱりなんか違うわ』って。キャンプ中に抱いていた悪い感覚がマウンドで出てきて、『またこれや』みたいな。あの試合は、自分の中でも一番落ちていました」
6失点を喫して降板した後、左腕は球場内でウエートトレーニングに励んだ。テレビには試合の映像が映っていたが、あまりの悔しさゆえに視線を送ることは一切なかった。「自分で恥を晒しただけだったので……。見た方がいいのかもしれないですけど、それよりはやるべきことに集中しようかなと。気持ち的にも『明日からまたやるか』という感じでした」。
その日の夜も、両親と食事へ。「あんなピッチングもしてしまいましたけど、せっかく滋賀から来てくれた。でも夜に考える時間は作りたかったので、開始の時間もちょっと早めにしました」。焼肉を口にしたところで当然、気分は晴れない。自分に野球を教えてくれた父親の一言が、受け入れたくないほどの“図星”だった。「『悩んでいるな』と言われたんですけど、僕が一番わかっているので。『ちょ、ほんま言わんといてくれ』って感じでした」。
宮崎で1か月を過ごした春季キャンプ、手を差し伸べてくれたのは上茶谷大河投手だった。チーム屈指の明るさを誇る9歳年上の右腕。「時間が合えば部屋に行って『ちょ、やばいっすわ……』って」。年の差はあれど、プロ野球選手同士。上茶谷は励ましの言葉をくれるわけではないという。「それでも一番長く一緒にいましたね。朝のタクシーとか、キャッチボールも一緒でしたし。会話しているのは普通のことなんですけど、ケアしてもらっていたなと感じます」。寄りかかる存在がいる。それだけでも、前田悠にとっては心強かった。
今永昇太との自主トレ…当時のノートに見つけた“兆し”
高校時代には3度の全国制覇を成し遂げた。小学生のころからエースを任され、エリート街道を歩んできた20歳が苦悩に直面している。必死に探し続ける“光”。道標になるのは、どんな時も妥協することなく残してきたノートの言葉だ。
「千賀(滉大)さん、今永(昇太)さんとの自主トレは、別々のノートにまとめてあるんです。今永さんのところで『チェンジアップの力感で真っすぐを投げる』って書いてあって。確かに強く投げようとしすぎていたのかもしれないです。その時の動画も見返して『あ、こういう感覚でやっていたな』って再認識できたので、多少の兆しは見えているかなと思います」
3月上旬には、追い打ちをかけるように体調を崩した。38度の熱にうなされ、戦線離脱を余儀なくされた。「オフの過ごし方も変えてみたらいいんじゃない?」。そう助言してくれたチームメートの言葉を信じて、気分転換にドライブへ出かけてみた。流れる景色を眺めていても、頭から野球が離れることはなかった。「運転しても眠くなるだけですし、それなら練習したいですよね」。若鷹寮の自室にいても、何かを閃いたら立ち上がってシャドーピッチングする。そんな愚直な姿勢もきっと、いつか結果となって報われるはずだ。
今月20日、ファーム・リーグの阪神戦(タマスタ筑後)で実戦復帰を果たし、2回無失点に抑えた。“野球を楽しむ”と決めて1か月。「めちゃくちゃしんどくて気持ち的にも下がっていましたけど、毎日継続すれば必ず良くなると思いながらやってきました。バッターともしっかり対戦できましたし、もうこの感覚を手放さないように」。複雑な感情も残しながら、目線を上げて笑った。“孤独”の先で必ず、自分自身の力を証明する。
(竹村岳 / Gaku Takemura)