「佑京、タッチアップ!」で通じる2人の考え
ワンプレーの中に詰まっていたのは、高次元の判断力だった。21日の広島とのオープン戦(みずほPayPayドーム)、3回無死一、三塁の好機。近藤健介外野手が放った打球は左中間寄りへと上がり、三走の柳町達外野手は悠々と生還した。打球が上がった瞬間に、追加点が確信できる当たりだった。しかし、驚くべきは一走の周東佑京外野手が、タッチアップのスタートを切ったことだ。
捕球位置は定位置より少し深いところ。通常、一走が次の塁を狙うにはリスクの高いはずだったが、周東の快足はそれを可能にし、迷わず二塁を陥れた。1死一塁のはずが、1死二塁というさらなる得点チャンスに変わる。なぜ、これほど果敢に攻めることができたのか。研ぎ澄まされた観察眼と判断の裏側を背番号23が明かす。そこには、コーチとの見事な“阿吽の呼吸”があった。
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周東佑京のタッチアップにあった判断の中身
新1・2番の並びで実現するホークス打線の形とは
村松コーチが周東に送った「さすが」に込めた意味
「本多(雄一)コーチから打球が上がった時に『行けるよ』って言われたので『行きます』って言ってスタートしました。打球を見つつ、相手の捕球体勢が悪かったことも確認しながら。仮に良い送球が来そうだったら戻ればいい、と思っていました」
当然というような表情で、こう語る周東。近藤のバットがボールを捉えてから二塁に到達するまで、わずか9秒ほどの間に、これほど濃密なやりとりと判断があった。打球の速度と角度、相手の捕球姿勢。そしてトップスピードの中で、相手がどのような返球をするのか。全ての要素が瞬時に計算されていた。
周東の隣からこのプレーを思い描き、指示を送ったのが本多雄一内野守備走塁兼作戦コーチだ。「上がった瞬間に声を出しました。相手の捕り方と、その後のカットマンへのつなぎ方。もし、ダイレクトで二塁へ来るような送球なら、佑京は止まっていたはずです。僕と佑京が思ったことは全部一緒だったと思います」。大歓声でも聞こえるようなはっきりとした声で、本多コーチが放った言葉は「佑京、タッチアップ!」の一言。2人の思考は完全にシンクロしていた。
「1番・柳町、2番・周東」の意図
ワールド・ベースボール・クラシックからチームに帰還した周東を、首脳陣は2試合連続で「2番」で起用した。この構想が、今季のホークス打線において極めて重要なピースになりそうだ。村松有人野手チーフコーチは「1番・柳町、2番・周東」という並びの意図をこう明かす。
「出塁率の高い柳町を前に置きたいというところですね。加えて、佑京ならゲッツーがない。役割を考えると1番は柳町、2番が周東の方が機能するのかな、と。(無死一塁からヒッティングさせて内野ゴロになっても)最悪ゲッツー崩れで、1死一塁にはなるので」
相手守備陣からすれば、これほど嫌な組み合わせはない。柳町は通算で出塁率.362を誇り、昨シーズンに記録した62四球はリーグトップだった。日本一を掴み取った2025年、併殺がわずか「5」だった周東なら、一気にアウトを2つ奪われるリスクも限りなく低い。ランナーとして一塁に残れば、今回のような“神出鬼没”な走塁が常に付きまとうのだから、与えられるプレッシャーも大きくなるはずだ。
試合の序盤、広島の先発右腕・ターノックが唸るような剛球を投げ込んでいた。1打席目は三振に倒れた周東だが、3回無死一塁の2打席目には追い込まれながらもきっちりと右前へ運び、チャンスを演出した。「結果的にあっち(引っ張り方向)に打てたらいいなとは思いましたけど、そんなに上手くは打てないだろうなと。とりあえずバットに当たればいいな、と思っていました」と周東は謙遜する。しかし、村松コーチは「いいバッターは1球で仕留める。さすがだなと思いました」と、その集中力を高く評価した。
技術的な進化に加え、今の周東には置かれた状況を俯瞰して楽しむような余裕すら感じられる。打順へのこだわりはないと語るが、首脳陣が求めた「2番」の理想像を体現したのが、この日見せた3回の攻撃だった。「与えられたところでしっかりやるだけです」と語る周東。タッチアップひとつで球場の空気を一変させてしまう男の姿に、“隙のない野球”の真髄を見た。
(飯田航平 / Kohei Iida)