昨年10月以来の実戦出場「最初にしてはよかった」
試合開始10分前、一瞬の静寂が訪れたタマスタ筑後のグラウンドに誰よりも早く姿を見せ、準備を始めたのは中村晃内野手だ。たとえ2軍戦であっても、36歳の姿は絶対に変わらない。“お手本”と呼ばれる最大の理由が、プロとして19年間徹底的に磨き上げた「当たり前の質」だ。孤高の背中は、言葉以上に雄弁に物語っていた。
17日、ファーム・リーグの広島戦に「3番・指名打者」で出場した中村晃。昨年11月に腰の手術を受けて以降、初の実戦復帰となった。3打数無安打に終わったが「体は問題ないので。ストライクに対してもしっかりと反応できましたし、最初にしては良かったのかなと思います」と小さく頷く。4か月半にわたるリハビリを乗り越えて、背番号7が再び帰ってきた。
この日は本拠地開幕戦。午後0時40分からマウンド付近でセレモニーが行われた。特別な演出に高まる期待感。球場の熱気も冷めやらぬ中、選手たちはベンチの中へと引き上げていく。プレーボールまで残り10分。誰もが息を整える「空白の時間」に、誰よりも早くグラウンドに駆け出したのが中村晃だった。その背中を、静かに目に焼き付けていたのは――。
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続きの内容は
斉藤和巳監督が明かす、中村晃の“逆算準備”の「具体的極意」
高卒2年目の若鷹が思わず感嘆「あ、もう走ってる」その後の行動
中村晃が遅れを取り戻した「驚きのリハビリ戦略」
育成・広瀬結煌も驚き…先に準備を始めていた大先輩
「やっぱり1軍でレギュラーを張って、主軸としてやってきた選手。去年も3軍戦にクリ(栗原陵矢)であったり、コンちゃん(近藤健介)がきたけど、きょうの晃も一緒よね。全てが早い。準備をしているだけじゃなくて、全てがしっかりと逆算できている。そういったところを他の選手が見て、どう感じているのか。いいお手本がいるわけなので。そういったいいところはどんどん真似してもらいたいなと思う」
そう語ったのは、斉藤和巳2軍監督だ。現役時代は小久保裕紀監督のもとで自主トレをともにした経験もある2人。中村晃のプレーを目の前で見るのは久々だったが、多くの若鷹がいる筑後において、36歳の存在感は“別格”だった。「なんか、当たり前のようにこっちは見てしまうけど。当たり前のことを当たり前のようにできるのが大事だし、その“質”もまた高いよね。やっぱりさすがです」。指揮官も唸るしかない。たった一日でも目を引くような、一切隙のない姿勢だった。
中村晃に続いて、2番目に準備を始めたのは育成の広瀬結煌内野手だった。グラウンドに足を踏み入れ、視線を上げるとすでに背番号7が体を動かしていた。「あ、もう走ってる……」。その姿は、すぐ目に飛び込んできた。「(ベンチの)裏にいてもやることがあるわけではないし、自分もスタメンだったので素振りをしようと思ったんですけど。一流選手ほど、そういうところが徹底されているんだなと勉強になりました」。高卒2年目の19歳にとっても、大きな刺激を受け取った瞬間だったに違いない。
例年に比べて仕上がりは「1か月遅れくらいですかね」
例年ならオフシーズンにトレーニングを積み、2月の春季キャンプで徹底的に技術練習を重ねる。そして3月にはオープン戦という流れで開幕を迎えるが、その全てをリハビリに費やした中村晃は「何もできていないのは結構痛いです。そんなにこの世界は甘くないし、強化する期間は作らないといけない」と語っていた。自らも認めた大きな“遅れ”を、どのようにして取り戻してきたのか。
「今やっとオープン戦に入ったかなっていう感覚ではいます。単純に1か月遅れくらいですかね。キャンプ中もしっかりと振ったり、ノックを受けたりっていうのはできていたので。できていなかったのは、ランニングですね。いつもならできているのが、ちょうど今できるようになってきたかなと。走っている感覚もそこまで悪くないと思います」
ようやく迎えた復帰戦において、自らに課していたテーマは「全力プレーができるかどうか」だった。たとえ凡打だとしても、全力疾走を欠かさない背番号7らしい“信条”。「しっかり走れましたし、きょうやりたかったことはできたのかなと思います」と静かに語った。みずほPayPayドームで画面越しに見守った小久保裕紀監督も「ファーストを駆け抜ける姿を見ていても、2軍の中で一番良かったんじゃないですか。頭を上げずにベースまで」と賛辞を贈った。
1軍復帰への足音は、少しずつ大きくなってきた。「(次のステップは)守備ですかね。足、腰の状態を見ながらやっていけたら。グラウンドで自分の全力プレーができるように、その中で結果を出していけたらなと思います」。150日ぶりに帰ってきたグラウンド。中村晃はなぜ、準備を大切にするのか――。試合開始10分前の姿が、その理由を象徴していた。
(竹村岳 / Gaku Takemura)