嶺井博希から育成右腕へ…“1軍基準”の助言「何の意味もない」  評価された姿勢

嶺井博希(右)と大竹風雅【写真:竹村岳】
嶺井博希(右)と大竹風雅【写真:竹村岳】

B組の練習試合…嶺井博希が放った存在感

 みずほPayPayドームの記者席は、ベンチと遠く離れている。選手たちの声が聞こえることはほとんどないが、その点で言えば春季キャンプは特別だ。グラウンドとの距離感も近く、戦うナインの“生の声”が力強く届いてくる。2月28日、B組が臨んだ日本製紙石巻との練習試合。存在感を放っていたのが、「4番・捕手」としてスタメン出場した嶺井博希捕手だ。

 ベテランらしさが出たのは3回無死での守備の場面だった。打者の飛球がふらふらと二塁後方に舞う。マスクを放り投げ、嶺井は「風! 風!」と指示を送った。これまで多くのベテラン選手を取材してきた中で、豊富な経験を持つ選手ほど「意味のある声を出す」と聞いたことがあるが、グラウンド上に響き渡った嶺井の言葉は、まさに適切な指示だった。

 このシーン、風向きは右翼から左翼。バックスクリーンになびくフラッグを見ても、決して弱風ではないように見えた。S組での独自調整から、B組に合流した1か月間。高谷裕亮バッテリーコーチが明かしたのは、嶺井が若手投手に“1軍レベルのアドバイス”を送っていた事実だった。34歳のベテランが語った重みのある言葉とは――。

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続きの内容は

嶺井が明かした「1軍では何の意味もない」勝負とは
育成右腕を急成長させた、嶺井流の「高さ」の指示
高谷コーチが若鷹に「真似してほしい」と語った“些細な行動”

育成右腕・大竹に送った助言「腕を振ってこい」

「大竹(風雅)投手が投げていた時ですかね。嶺井がベンチで『この試合で(相手に)合わせてカウントを取ったり、それで抑えたところで、1軍に行ったら何の意味もないから。そういうことは気にせずに腕を振ってこい』と言っていましたね」

 キャンプ中に155キロを計測するなど、急成長を見せている5年目の育成右腕。一方で変化球の精度に課題があることは、嶺井も感じ取っていた。「練習試合」という位置付けの一戦。“置き”にいってカウントを整えても意味がないことをハッキリと伝えた。その姿を目の当たりにした高谷コーチも「『プロの1軍を抑えるんだったら、しっかりとしたもの(芯)を持たないと勝負にならないよ』っていうことを言いたかったんじゃないですかね。経験が多いからこそ言えることだし、説得力があります」と信頼を寄せる。

 この日の先発は藤原大翔投手だった。大竹がマウンドに上がったのは4回だったが、3回の攻撃中に嶺井はブルペンに向かった。どんな投球をしたいのか、事前に意見を交わした。右腕はその気遣いを深く感謝し「どの球種も『高さ』をテーマにしていました。それをちゃんと伝えると、ミットを低く構えてくれたり、カウントを取りたい時もあえて真っすぐじゃなくて変化球を出してくれたり。引っ張ってもらったなと思います」。バッテリーを組んだのは2軍で数回程度。久々の“コンビ”で、大竹の意図をしっかりと理解してから4回の守備に臨んだ。

 結果的に大竹は3回無失点とゼロを並べたが、3四死球を与えるなど課題も残った。嶺井から授かった“1軍レベルのアドバイス”について、右腕も「フォークについては『1軍にいったら見極められることも増える。もっと腕を振った方が落差も出るし、その方がいいよ』と。1軍で投げたいならそれくらいしないといけないんだなと思いましたし、頼もしかったです」。目の前の打者を抑えることは重要だが、見据えるべきなのは1軍のマウンド。どんなパフォーマンスを見せられるか、今の自分に何が必要なのか――。あらためて痛感する登板となった。

高谷裕亮コーチも嶺井を「真似してほしいなと思います」

 嶺井の能力は、首脳陣も熟知している。他の選手の実力をA組で見極めるため、そして若鷹に惜しむことなく経験を伝えてもらうために、背番号12はB組に合流した。午前8時の室内練習場。誰よりも早く準備を始める姿に、高谷コーチも最敬礼した。

「どこにいてもやることが変わらないのは頼もしいですよ。例えば試合でも、ファウルが飛んだら野手が定位置に戻るまでマスクをしないで待っていたりとか。若いキャッチャーはすぐに始めようとするので、僕も『待て待て』って言ったことがあるんですけど。ベテランがいると試合が締まったり、一気に落ち着くことってありますよね。本当に些細な目配り、気配り。誰でもできることですし、他の選手たちも(嶺井に)聞いて見習ってほしい、真似してほしいなと思います」

 球春は若鷹たちにとっても貴重な時間となったはず。リーグ3連覇と2年連続日本一を目指す2026年。嶺井の力が必ず1軍を救うはずだ。

(竹村岳 / Gaku Takemura)