笹川吉康が変えた習慣 書き記す「戻るべき場所」…スロースターター脱却の裏にある“静かな時間”

手にした不調脱出の処方箋

 2026年、選手の思いや内面に迫る記事をお送りする新連載「鷹フルnote」。今回は笹川吉康選手が登場です。2026年シーズンに臨むにあたり、“変えた習慣”とは。毎年、春先はエンジンのかかりが遅いとこぼしていた23歳が明かした、シーズンへの不安な気持ち。すでに今春の対外試合で3本塁打を放つ活躍を見せている“ブレイク候補”が、現状を語ります。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 プロ6年目を迎えた春。シーズンを戦い抜くための“感覚”を掴みつつある。3日に行われたヤクルトとのオープン戦に「7番・中堅」で出場した笹川は、2安打2打点の活躍を見せた。

 この日のハイライトは3点を追う8回2死満塁の場面で訪れた。カウント3ボールから迷わずに4球目を強振。右中間を破る2点二塁打に本拠地は歓声に包まれた。「打点のチャンスだと思っていました。ホームランなら4点ですし、逆転もありましたから」。“待て”のサインを送らなかった首脳陣の期待に、結果で応えてみせた。

 この一打に対して、小久保裕紀監督が驚く様子を見せなかったことが、今の笹川の充実ぶりを物語っている。「全然打っていい場面だったので。その前のセンター前もそうですしね。ずっとキャンプから状態はいいですね」。指揮官がそう目を細める通り、今季の笹川は対外試合ですでに3本塁打を記録するなど、好調をキープしている。

 例年、スロースターターの傾向がある23歳。今年1月の自主トレ期間中には「毎年悪いので。今年はちゃんとスタートができるかっていう不安と焦りがあります」と、本音をこぼしていた。それがなぜ、これほどまでの仕上がりでオープン戦を迎えられているのか。その要因を尋ねると、笹川は確信に満ちた口調で“習慣の変化”を明かした。

会員になると続きをご覧いただけます

続きの内容は

ノートの「書き方」を根本から変えた驚きの理由
不調になった時に見る「処方箋」の中身
豪快スイングの裏にある「重心移動」の修正法

記せなかった感覚を取り戻す言葉

「自分の感覚をノートに書くようにしています。3年前くらい前からやっているんですけど、それでもスタートが悪かったので。ノートの書き方が少しずつ変わってきました。これまでは悪くなった時に、良くなるためのことをまだ書けていなかったから、1週間で感覚を逃しちゃうこともあったんです。調子の波が小さくなったのは、それが大きいです」


 以前は好調時の感覚を書き残しても、不調脱出のヒントにならないことが多かったという。「『今』の感覚はよくわかるんです。だけど、ノートにはそれが分かっている時に書いているので、分からなくなった時はその時の感覚自体がないので。どうやってそこに戻せばいいのか、見返しても分からなかったんです」。

 感覚とは水物であり、一度手から零れ落ちれば、文字を追うだけで再現するのは難しい。そこで笹川は、ノートの“記し方”を根本から変えた。良くなった理由だけではなく、なぜ悪くなったのかという「原因」を言語化するようにした。


「『こうしたら良くなった』だけだと足りなくて。『こうすれば良くなったけど、なんでそうしなかった時に悪くなったのか』というところも書いておいて。そうすれば『あ、今はこうなっているからダメなんだ』と、不調の原因みたいなことがわかるようになってきました」


 これにより、不調に陥った際の“処方箋”が明確になった。例えば、体重移動のわずかなズレについても分析は緻密だ。「ゆっくりタイミングを取りたいのに、早く足を上げてバランスを崩すことがあるんです。そんな時は『あ、重心が前すぎるな』と。逆に後ろすぎると、センター方向へのイメージが湧かなくなる。その時は『あ、重心が後ろだ』と違和感に気づくことができるようになりました」。


 打席の中で生じるわずかな狂いを、過去の自分が書き残した記録と照らし合わせ、その場で修正する。このサイクルが機能し始めたことで、立て直しにかかる期間が短縮された。ポテンシャルは誰もが認める大器。グラウンドで見せる豪快なフルスイングの裏には、ペンを走らせる静かな時間がある。笹川吉康は今、自らの言葉でその才能を開花させようとしている。

(飯田航平 / Kohei Iida)