B組の練習試合で2回4失点…満塁弾を許した“試合後”
自らへの不甲斐なさに、思わず感情を抑えることができなかった。試合後、斉藤和巳2軍監督に呼び出されたのは大野稼頭央投手だった。“怒られる”と思ったが、指揮官は大きな愛情で受け止めてくれた。2月28日、B組が臨んだ日本製紙石巻との練習試合。3番手で登板した4年目左腕が打ち明けたのは苦悩だった。「投げるのが怖いです」――。
7回からマウンドに上がると、8回にピンチを迎えた。2死満塁から8番打者に右翼越えの満塁弾を許し、2回4失点。15日、20日の紅白戦ではともに失点を喫し、第6クールからB組に降格したばかりだった。3試合連続で結果を残せず「やるべきことは理解して練習に取り組めているんですけど。なかなか結果に結びつかない。そういう状況が3試合くらい続いていて、自分でも気落ちしてしまっていた」。厳しい現実に、苦い胸中を吐露するしかなかった。
試合が終わると、投手陣のミーティングが行われる。斉藤監督から声をかけられたのは、その後だった。一塁側に姿を消すと“2人だけの時間”が流れる。ありのままの思いを、斉藤監督にぶつけた。
マウンドに上がる時だけは、それはやめようや」
「『俺とお前の話やから、正直に今の気持ちをぶつけてこい』って言ってもらいました。気持ちはわからんでもないと理解してもらったうえで、『きょうはマイナスなところがマウンド上で出過ぎていた。結果が出ていなくて、気が落ちているのは見ていてもわかるから』と。『そこでやけくそになるんじゃなくて、自分の機嫌で投げてしまうと結果は残せないし、悪いことは全部自分に返ってくる。マウンドに上がる時だけは、それはやめようや』という話でした」
満塁弾を浴び、打者走者がホームインした後、左腕はロジンを地面に叩きつけた。グラウンドに舞った粉塵を指揮官が見逃すはずがない。呼び出された時は「あれか、怒られるわ……」と脳裏をよぎった。しかし、斉藤監督の言葉に怒りのような感情は一切ない。「投げたくない、投げるのが怖いのが正直なところです」――。幼い頃から投手としてマウンドを守ってきた。勇気を出して、初めて味わう感情を打ち明けると、真っすぐな思いを伝えてくれた。
「最後も『全部を気にしないのは難しいと思う。なにか不安なことがあったりとか、自分の気に障る出来事が起こったり、周りから言われたらいつでも腹を割って話に来い』って言ってくれました。悩んでいた部分というか、自分に対して気に食わなかったところが全部吐き出せました。スッキリしたというか、『救ってもらったな』と思います」
この日の試合、当初は大野が先発予定だったが、小久保裕紀監督の視察に合わせて急遽、登板順が変更された。3番手として登板する予定だった藤原大翔投手が先発を務めることになった。大野に対して、奥村政稔2軍投手コーチも理解を示す。「B組に落ちてきたこの状況で『気持ちを落とすな』って言う方が難しいですよ。大事なのはあした以降です。笑顔で挨拶できたら、またちょっと大人になれますよね」。誰よりも若鷹に厳しい奥村コーチですら、思わず“同情”の声を漏らした。
野球人生でも初の経験…ミーティング後に向かった場所
斉藤監督とのやり取りを終えて、大野はランニング場へ。疲労を抜くため、頭を整理するために自ら1人の時間を作った。「『投げるのが怖い』とまで思ったのは初めてなので……。そういう感情を持っている自分にも苛立っていましたし、頭を冷やす意味でも走ってきました」。1月はオリックス・山岡泰輔投手のもとで自主トレを行った。積み上げてきたものを信じながら、最後に言い聞かせた言葉は「また最初からやればいいか」――。弱さを受け入れて、もう1度前だけを向く。
「斉藤監督と『そうなる気持ちは絶対にあるから。そのうえで、自分がどうあるべきか。試合を動かすのは投手だし、そこの責任は持たないといけない』っていう会話をして、再認識しました。自分の気持ち的にも落ちるところまで落ちたなと思っています。いろんな感情がごちゃまぜになったのが、一気にスッキリして、またあしたからキャンプ初日だと思ってやれたら状態は上がってくると思います」
3月1日の朝、大野は笑顔で集合に現れた。悔しい経験をして、また少し強くなったはず。「お前の気持ちをぶつけてこい」。斉藤監督の言葉と愛情を胸に、また走り出す。
(竹村岳 / Gaku Takemura)