「今年はちょっと違う」首脳陣の視線
並々ならぬ決意と先発転向への思いが表れたマウンドだった。2月25日の台湾・中信兄弟戦(台北ドーム)。台湾野球ならではの爆音とともに送られる大歓声に敵地が包まれる中で、背番号39が躍動した。3番手として登板した尾形崇斗投手は、3イニングを投げて7奪三振。許した走者は四球による1人のみで、被安打はゼロという快投を披露した。
今キャンプ中は試行錯誤の日々が続いていた。いつも強気な右腕が、「順調ではないですね。体のリカバリーとか疲労感が全然違いますね。疲労が抜けにくいです」と本音をこぼす。昨季までは中継ぎとして全力で腕を振り続けてきたが、慣れない先発調整の難しさを実感しているところだ。
それでも尾形には明確な目標がある。語ったのは「今のホークスにいない、目指すべき先発像」だ。先発転向に至った、倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)とのやりとりをこう明かす。
会員になると続きをご覧いただけます
続きの内容は
「自分がいる意味がない」先発転向の裏にある尾形らしい理由
首脳陣が注目するオープン戦で試される「未知数の姿」
フォークの「落差」増すも、尾形の新たな課題
先発転向で見せた「楽しみ」な未知数
「先発転向は自分から倉野さんに言いました。結構みんなは『(首脳陣から)言われた』という感じで受け取っているんですけど、自分から『先発がやりたい』と。11月くらいに直接言いました」
昨シーズン終了後、すぐに尾形から直談判した。「お前がやりたいなら、監督に言ってみる」と倉野コーチから背中を押され、先発転向が実現した形だ。では、なぜ尾形は先発を目指すことになったのか――。そこには自身の能力を踏まえた上で、チームに貢献するための尾形らしい理由がある。
「上沢(直之)さんはバランスで抑えるタイプだと思いますし、大津(亮介)さんは変化球がうまく使える。そこに日本人の“パワーピッチャー”は絶対に必要だと思うんです。中継ぎの強度でどれだけイニングを伸ばせるか。強度は絶対に落としたくはないんです。それが無理だったら、自分がいる意味がないです」
150キロ中盤の直球で相手をねじ伏せ、高出力のまま長いイニングを投げることを目標に掲げる。その点で言えば、中信兄弟との試合では見ることができなかった「4イニング目以降の投球」。そこはオープン戦に入ってから首脳陣も注目したいポイントに違いない。
昨季とは違う数字の変化
今キャンプ中、小久保裕紀監督や倉野コーチらが尾形のブルペンを見つめるシーンがあった。当然、“見られている”ことは右腕の頭にも入っている。「『どんな風になるんだろう』というイメージを持ちながら、僕のことを見ていると思うんです。毎年期待の言葉をかけられるんですけど、今年はちょっと違った感じです」。先発転向という未知数の姿。それは尾形にとっても、自身がどのような投球を見せられるかが「楽しみ」だという。
一方で、先発調整を続ける右腕の背中を押す“ある数字”の変化がある。データ分析の担当者が注目したのは、尾形が投じるフォークの「落差」だった。昨季よりも落ちが大きくなっていることが数値化されているという。だが数値が向上した一方で、新たな課題も浮き彫りになっている。小久保監督も指摘する「腕の振り」の緩みだ。変化球を意識するあまり、わずかにフォームが緩めば、一線級の打者は決して見逃してくれない。現実と向き合いながら、出力を維持する投球が今後の課題となる。
短いイニングに魂を込めていた情熱はそのままに、長いイニングに立ち向かう。鉄腕の気迫ある投球は見るものの胸を熱く震わせるはずだ。描く理想にどれだけ近づけるのか――。尾形の“未知数”の姿が楽しみだ。
(飯田航平 / Kohei Iida)