育成3年目の中澤恒貴…山川穂高と自主トレした理由
泥にまみれて、白球を追った3か月間。日々を共にしてきた山川穂高内野手が、思わず感動したと口にするほどの姿だった。握手も、抱擁も必要ない。どれだけ頑張ってきたかを知っているから、惜しみない拍手だけを送った。「死に物狂いで3か月やり切りましたし、それは自信になりました。これだけ練習したのは野球人生で初めてです」。今季3年目を迎えた中澤恒貴内野手が、鍛錬の日々を振り返った。
東京都出身の中澤は青森の八戸学院光星高に進学すると、甲子園の舞台も経験した。2023年育成ドラフト4位でプロの世界へ。同学年には前田悠伍投手や藤田悠太郎捕手らがいる。2年目だった2025年はウエスタン・リーグで22試合に出場して打率.327、0本塁打、9打点。17本のヒットを放ち、ポテンシャルの片鱗を見せつけた。
勝負の3年目。さらなる進化を求めて、山川に弟子入りした。きっかけは昨年10月、「みやざきフェニックス・リーグ」でともにプレーしたこと。食事に誘われ「その時に自主トレの話になって『来いよ』と言ってもらいました」。厳しい練習が待ち受けているのは当然理解している。覚悟を決めて、門を叩いた。
山川の自主トレは、いわば“古典的”。「効率とは真逆ですよ」と本人も笑うほどだ。本塁打王を4度獲得するなど、輝かしい実績は他を寄せ付けない圧倒的な練習量に裏打ちされている。「頭の先からつま先まで使わないとホームランは打てないので」。20歳の中澤も、必死についていった。「今思い返したら、3か月って一瞬でしたよ」。キャンプインを間近に控え、いよいよ“ゴール”が見え始めた1月26日。“最後の1球”をやり遂げた若鷹の姿を見て、山川は胸を打たれた――。
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続きの内容は
山川穂高が刺激を受けた理由…中澤恒貴のギラギラした志
山川穂高に授かった金言…絶対に忘れてはならない感謝の心
鮮明に覚えている“最後の1球”…山川穂高が「言わないこと」
毎日あったノック…最後の1球に「感動しました」
「秋広(優人)もそうですけど、特に僕は中澤と練習したことが大きかったです。育成選手を久しぶりに(近くで)見て、これから成り上がっていく思いだとか、いろんなものを感じることができました。技術やフィジカルはまだまだかなと思いますけど、その志ですよね。すごく刺激になったし、最後の1球を捕った時は感動しました」
必ず毎日あったノック。形を意識しながら技術を磨くというよりは、ひたすら左右に振られる「アメリカンノック」のようなものだった。3か月間、一番近くで白球を追う中澤の姿を見てきた。“最後の1球”を掴み取った時、ノッカーを務めていたのが山川だ。「彼がこれからスターになった時、この練習を思い出すだろうなって思います。感動する時って、歴史が必要。いっぱい苦しい思いをしてきたのを知っているからこそ、活躍するのが見たいです」。もっと上手くなりたい――。20歳の“渇望”は、球界を代表するスラッガーの心を揺さぶっていた。
中澤自身もその瞬間を「鮮明に覚えています」という。飛び込んで捕球した後、起き上がることもできない。グラウンドに寝転がったまま、心の底から達成感を味わっていた。感動したという山川だが、抱擁や握手を交わしたわけではない。中澤の姿を見て、静かに拍手を送っていたそうだ。「山川さんはそういうことは僕らには言わないと思いますね」。面と向かって“褒め言葉”を送らないのも、きっと2人ならではの関係性。年齢は14歳離れているが、お互いに刺激を与えていたことは間違いない。
多くのサポートに感謝…中澤恒貴が授かった金言
3か月間、誰よりも近くでスラッガーの人柄に触れた。授かった金言は「自分のために野球をやるな」――。専属のトレーナーをはじめ、多くの人が山川の自主トレをサポートしている。そのありがたみを誰よりも大切にするからこそ、深い一言だった。「それが一番印象に残っています。『関わってくれた人のためにやれ』と。そうすればキツいことも、だるいなと思うことも頑張れる。そういう気持ちで今年1年間やっていきたいと思います」。中澤にとっては、財産ばかりの3か月間。支配下登録という最高の結果で、師匠に恩返しがしたい。
「11月から一緒に練習するようになって、ほぼ初対面だったのに本当に面倒を見てもらいました。山川さんや手伝ってくれた人たちがいなかったら、ここまで来られていないですし感謝しかないです。毎日が必死で、気がついたらもう次の日みたいな。キツかったし、3か月って聞くと長いなと思いますけど、今思い返せば一瞬だったような気がします」
誰よりも練習した成果は、きっと花開くはず。「技術面はもちろん、立ち振る舞いだとか野球以外の部分も勉強させてもらいました」。2桁の背番号を手にするために、成長し続ける。中澤恒貴の2026年から、目が離せない。
(竹村岳 / Gaku Takemura)