「味方がいる感覚がなかった」 狂った歯車と不安の“闇”…上沢直之が本音で語る“1年前”

インタビューに答える上沢直之【写真:栗木一考】
インタビューに答える上沢直之【写真:栗木一考】

2月1日は「“新年”って感じじゃないですか?」

 2月1日から宮崎・生目の杜運動公園とタマスタ筑後で春季キャンプが始まりました。鷹フルでは、テキストインタビューで選手たちの今季にかける思いに迫っていきます。今回は上沢直之投手が登場。打ち明けたのは、1年前に抱いていた大きな葛藤でした。「歯車は大きく狂っていました」――。今だから言える事実。そして首脳陣が“雲泥の差”と言い切る仕上がり具合について明かしました。

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 待ちに待った球春到来。2月1日は、プロ野球選手にとって特別な日付の1つだ。「『ここから1年が始まるんだ』とは思いますね。自主トレの時の方がハードな練習をしているんですけど、ユニホームを着ると筋肉痛も強くなりますし。やっぱり“新年”って感じじゃないですか?」。ホークスに移籍して2度目の春季キャンプ。上沢も背筋を伸ばして、鍛錬の地にやってきた。

 1日目の練習を終えて、右腕は自身のインスタグラムを更新した。チーム宿舎から見える夕日とともに「初日怪我なく終われました。それだけで十分」。過去の経験を振り返れば、それはまぎれもない本音だった。重圧を一身に背負い、味方すら信じられなかった1年前。「難しいですけど……」。慎重に言葉を選び、一瞬の沈黙が生まれる。上沢の“口癖”に隠されていたのは、壮絶な覚悟だった。

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続きの内容は

重圧の果てに語った…味方を「信じられない」という真意
上沢直之が繰り返した“口癖”…明らかになったその意味
チーム連覇のために、上沢直之が掲げる「絶対条件」

2024年夏に痛めた肘…色濃く残っていた“影響”

「誰かを信用しているという感じはなかったですね」

 2023年オフにポスティングシステムを利用して、日本ハムから米大リーグに挑戦。1シーズンを終えたところで日本球界復帰を決断し、新天地に選んだのがホークスだった。様々な声が聞こえてくる中で、ファンの期待に結果で応えるしかない。自分自身に強い重圧をかけて、キャンプインを迎えていた。1軍のマウンドで戦うには、周囲のサポートは必要不可欠。当然理解していたものの、信じられない自分がいたのも事実だった。だからこそ、チームメートや裏方さんへ純粋な感謝の思いが滲む。

「自分でなんとかしないといけなかったし、結果を出すしかなかった。それは今年も変わらないですけど、去年は味方がいるっていう感覚はなかったです。徐々にキャンプを過ごしていって、手伝ってくれる方やコーチがたくさんいて、そのおかげで進んでいけたかなと思います」

 米国で過ごした2024年、右腕は夏場に肘を痛め、ノースローの期間も設けていたという。少しずつ状態は上向いたものの、その影響は小さくなかった。2025年となり、ホークスのユニホームに袖を通した春季キャンプでも「不安しかなかったですね」と振り返る。「立ち上げも難しかったし、結構大きく自分の中で歯車が狂っている感じはあって。それを戻すのに一生懸命だったのは覚えていますね。どこから手をつければいいかもわからなかったです」。

 3月の対外試合では満塁弾を浴びて7失点を喫した試合もあった。力強い言葉でひた隠したが、胸の内を占めていたのは大きな不安。今だからこそ打ち明けられる葛藤だった。「開幕前には試合で投げられるレベルにはなっていましたけど、全くしっくりはきていなかった。普通に試合で投げる“だけ”。自分の投げたいボール、フォームかと言われたらそうではなかったです」。日本一に輝いた昨シーズン、“口癖”のように繰り返していた思いは「結果を出すしかない」――。壮絶な覚悟があったから、光を見つけ、重圧を乗り越えることができた。

2日にブルペン入りした上沢直之【写真:栗木一考】
2日にブルペン入りした上沢直之【写真:栗木一考】

宮崎で初のブルペン入り「まとまっていた」

 そんな1年前の苦難を乗り越え、今月2日には宮崎キャンプで初のブルペン入り。変化球を交えながら約50球を投じた。「ある程度まとまっていたし、まずまずだったかなと思います」。そう語る表情に、不安は見えない。見守った倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)も「しっかりと身体を作って、まずは健康に2月を迎えてくれた。去年の今の時期とは、仕上がりも技術的にも雲泥の差がある。そういう話は本人にもしました」と信頼を寄せた。

 2年連続で最多勝を獲得していた有原航平投手が日本ハムに移籍。昨季12勝を挙げた上沢への期待も自然と大きくなる。「それはもちろん感じます。結局、(リバン・)モイネロに頼らざるをえない状況を作ってしまっていた。そうならないようにしたいなとは、個人的には思います」。“激変”した勢力図。まずはパ・リーグ3連覇を目指し、充実の球春を過ごしていく。右腕が考える連覇の「条件」は、実に明確だった。

「有原さんが抜けたイニングを誰かが補わないといけない。それができるだけのピッチングをしないと、連覇はないかなと思います。1年間、僕が波を作らないことですね。去年の後半以降に見せられたあの内容を1年間続けられたら、それなりにカバーできるとは思います」

 今季の先発陣において、絶対に欠かせない存在。「去年の自分の成績を全部超えられるようにやっていきたいです」。もう1度、日本一を味わうために――。葛藤を経験し、打ち勝ってきた男は強い。

(竹村岳 / Gaku Takemura)