幻となった自主トレも「晃さんしかいない」 届いた佐藤航太の願い…中村晃からの電話

佐藤航太(左)と中村晃【写真:飯田航平、竹村岳】
佐藤航太(左)と中村晃【写真:飯田航平、竹村岳】

語った憧れの先輩への純粋な思い

 受話器越しに聞いたその言葉は、胸が熱くなるような誠意の証でもあった――。育成4年目の佐藤航太外野手がこのオフ、自主トレを志願した相手は、今季で19年目を迎える中村晃外野手だった。しかし、その計画は背番号7が腰の手術を決断したことで、惜しくも叶わなかった。

 本来なら、そこで“師弟”の時間は消滅するはずだった。他で自主トレを行う選択肢もあった中、佐藤が選んだのは、中村晃のいるリハビリ組が練習を行う筑後だった。決断の裏には、憧れの先輩への純粋な思いと、自身が生きる道への確信があった。

 冬の肌寒い空気が張り詰めるタマスタ筑後。佐藤の表情には、孤独な自主トレを行う寂しさは感じられない。むしろ、これから始まる日々への期待で瞳が輝いていた。事の経緯を聞くと、佐藤は申し訳なさそうにしながら口を開いた。腰の手術を決断した直後の中村晃から、1本の電話があったからだ――。

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続きの内容は

クライマックス中に中村晃が電話をかけた「真意」
佐藤の母が語った「ホームランはいらない」の真相
中村晃から佐藤航太へ贈られた「熱すぎる約束」

中村晃から届いた「1本の電話」

「晃さんには9月の終わりくらいにお願いしていたんです。『いいよ、やろう!』と言っていただきました。だけどその後に『手術することになったから今回はできない』という電話をもらったんです。わざわざかけてきてくださって……」

 着電はクライマックス・シリーズの最中だった。自身の体のことで手一杯なはずのベテランが、わざわざ直接断りの連絡を入れる。その事実だけで、中村晃という人間の器の大きさが分かる。自主トレを行えないことは残念だったが、その事実が何よりも嬉しかった。

「晃さんからは『他のところに行く?』って言われたんですけど、僕の中では晃さんしかなかった。電話をもらった時に、『リハビリ組に12月もいるし1月もいる』ということを言っていたので、筑後だとみっちり練習ができるし、晃さんがいるので、リハビリの時間の合間を見ながら話を聞こうと思いました」

 一緒にバットを振ることはできないが、迷いはなかった。同じ空間にいれば、話を聞くことはできる。36歳のベテランもまた、その熱意に応えた。「自主トレで聞こうと思っていたことでもいいし、なんでも聞いてほしい。練習も見ておくから」。その言葉が、若鷹の背中を強く押した。

「めっちゃ自主トレに行きたかったです。晃さんはファーストですけど、外野もやっていたので、その話も聞きたかったんです。右だからとか左だからとかではなく、考え方とかそういうものを聞きたいんです。聞きたいことは山ほどあります」

“一発はいらない”…母からの鋭い指摘

 中村晃への弟子入りには、意外な“第三者”の視点もあった。「母に『今年自主トレどうするの?』って聞かれて、『晃さんにお願いした』って言ったら、『お母さんもそれを言おうと思っていた。あなたにホームランは求められてない。率を残すためにどう打つかっていうのを晃さんのところで学んでこい』と言われました」。少し照れくさそうに笑ったが、最も近くで息子を見てきた母親の直感は鋭かった。

 今年の冬は明らかに違う。年末に筑後の施設が閉まるまでウエートトレーニングを継続し、その後もバッティングセンターに通い詰めた。休みは元旦のみ。これまでにないほど充実したオフを過ごせているのは、ベテランの存在と言葉があったからだ。

 中村晃という“生きた教本”がすぐそばにいる。手術明けの先輩を気遣いながらも、限られた時間でその思考のすべてを吸収している。「2月のキャンプインから『違うな』と思われるようにしたいです」。一緒に練習ができなくても、その姿と行動からも多くの学びを得ている。

(飯田航平 / Kohei Iida)