東浜巨が残留…心が揺れた“10年越しの再会” 68日間の葛藤「ファンをもっと大切に」

  • 記者:竹村岳
    2026.01.16
  • 1軍
残留を決断した東浜巨は「ありがとう」と記した色紙を掲げた【写真:竹村岳】
残留を決断した東浜巨は「ありがとう」と記した色紙を掲げた【写真:竹村岳】

■「他球団からの条件提示もありました」

 国内FA権の行使から、68日――。東浜巨投手がホークスに残留することを明言した。「他球団からの条件提示もありましたし、いろんな話を聞きました。ホークス(のフロント)と話すたびに『戦力だから残ってほしい』という熱意を感じた。これだけ長くいるチームですし、それが一番大きいです」。残留を決断した最大の要因は、ファンの存在だった。目に焼き付けた優勝パレード、そして“10年越しの再会”――。応援してくれる人たちの言葉が、右腕の心を揺さぶった。

 2025年はプロ13年目のシーズンだった。7試合登板にとどまり、4勝2敗、防御率2.51。昨年11月9日にFA行使を決断し、2か月半もの間、苦悩は続いた。「ストレスや不安に思うことはありましたけど、いろんな人に支えられて僕は今ここにいるので」。最後の最後に思い出したのは、11月24日に行われた優勝パレードとファンフェスティバルで見た“景色”だった。「もちろん、あんなの忘れられるわけないですよ」。きっぱりとした口調で、感謝の思いを語った。

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【続きを読むと分かる3つのこと】
・優勝パレードで目に焼き付いた残留への「決め手」
・FA宣言中に「泣きそうに」なった10年越しの再会
・「どこでも行く」愛妻が授けてくれた“ポジティブ”な言葉

■優勝パレードで目に飛び込んできたファンの“ボード”

「もしかしたら応援してもらえる立場でここにくるのは最後になるかもしれないと思っていた。そんなことを考えながらスタンドを見ていたら、思いのほか自分のタオルやユニホームが多かったんです。ここ2年、3年は結果を出せなくて登板する頻度も減った。『どう思われているのかな』と、どこか気にしていたんですけど、本当に応援されているんだなって感じられました。感謝しかないですよね」

 東浜がホークスを去る――。その可能性があることは、ファンもしっかりと理解していた。優勝パレードでバスに乗って手を振りながら、目に飛び込んできたのはグッズだけではない。「ボードに『行かないで』と書いている人もいたし、大きな声で伝えてくれる人もいました。去年の活躍で言えば全然下の方だし、極端な話、そんな人は1人もいないと思っていたんですけど……」。その後のファンフェスティバルでも、限られた時間の中でみずほPayPayドームのスタンドを何度も眺めた。記憶に焼き付けた景色が、残留における最大の要因となった。

 福岡の町で外食や買い物に出かけた際も、声をかけられることが増えたという。その内容は人それぞれ。中でも「残ってください」「頑張ってください」という言葉が、強く胸に刻まれた。「インスタグラムにメッセージをくれた人もいました。FA宣言してもっと批判されるかなと正直思っていて、それも覚悟していたんですけど。ここまで温かいファンの方々の前で13年間プレーできていたんだなって」。違うユニホームを着ることになるかもしれない。重圧の中で過ごしたオフシーズンだからこそ、純粋なファンの言葉に救われた。

 印象的な出会いもあった。食事をしていた右腕に声をかけてきたのは、1人の青年だった。「その子が小学校の4年生、5年生の時に僕のファンになって、ホークスを好きになったそうです。成人になったその子とお店でばったり会って、『実はそうなんです』って言われました」。自らの進むべき道を模索していた中での感動的な“再会”。「感慨深くて泣きそうになりましたし、そんなこと言われたら揺れますよね」。自分は13年間も、福岡でプレーしてきたんだ――。そう実感するには、十分すぎる出来事だった。

2025年のファンフェスティバルでスタンドを見上げる東浜巨【写真:竹村岳】
2025年のファンフェスティバルでスタンドを見上げる東浜巨【写真:竹村岳】

■支えてくれた愛妻も「決まってよかったじゃん」

 愛妻も変わらずに支えてくれた。福岡を離れれば、生活環境も大きく変わる。権利を行使する前から相談を重ね、その明るさに救われた。「『どこにでも行くから。そこで生活できるのも楽しいじゃない』って。ポジティブに捉えてくれるし、そういうところにいい意味でハードルがない人なので。助けられました」。家族の人生も背負って、決断しなければならない。もう1度ホークスのために腕を振ると決めた東浜の目に、迷いはない。

「奥さんにも『残留することになったよ』と伝えると、『決まってよかったじゃん。より身が入った練習ができるね』って話をしてくれました。マイナスなこと(言葉)は1つもなかったですね。この期間中、いろんな感情があったんですけど。プラスの声をかけてくださるファンの方、支えてくれた周りの方、条件を提示して、厳しい状況の中でも(獲得を)検討してくれた方……。いろんな人に支えられて、応援されて今ここにいるんだなと再認識した2か月半でした」

 プロ14年目をホークスで迎えることになった。68日もの間、待っていてくれたファンへ――。東浜らしい実直な言葉で、メッセージを口にした。

「まずは『いつも本当にありがとうございます』という気持ちです。感謝しかないですし、おかげさまでここまでプレーできています。まだまだ野球がやりたいと思わせてくれる人たちがいるので、選手としては幸せを感じるばかりです。皆さんの声援が後押ししてくれました。そういうふうに思っていなかったわけではないんですけど、ファンの方々をもっと大切にしなきゃな、と。自分の中では思うことがありました。これからも“ホークスの東浜”として応援していただけたらと思います」

(竹村岳 / Gaku Takemura)