言霊に込めた思い――。
無心で振り込む姿に“執念”が漂っていた。日が傾きはじめても、バットを置く気配はない。「練習が長いタイプなので。納得がいくまで終わりたくない派なんですよ」――。6年目を迎える井上朋也内野手の2026年は、自らをとことん追い込むことから始まっていた。
「やりたかったらいくらでもやっていいよ」。自主トレを共にする仲田慶介内野手(西武)は、そんな井上を止めることなく、同じ量の練習をこなしているという。尊敬する先輩の言葉を背に、ただひたすらに汗を流していた。
明らかに何かを変えようとする、飢えた眼光。「ギータ(柳田悠岐)さんとか近藤(健介)さんなら“調整”でいいと思うんですけど、僕はそうじゃない。技術を上げていかないといけないので」。かつてドラフト1位で入団した際、井上は思い描いていた。「5、6年目でレギュラーを掴む」――。だが現実は甘くなかった。
怪我に泣き、分厚い選手層に阻まれる日々。昨季も1軍ではわずか8試合の出場に留まった。そんな井上の目の色を変えたのは、支えてくれた2人の存在からの言葉だった。
会員になると続きをご覧いただけます
続きの内容は
井上朋也が目指す「恐怖の打者」の具体的なイメージ
指揮官の構想を井上が「裏切る」ために決めたこと
2軍で打率.276を残しながら抱いた「打撃の迷い」
「城所(龍磨)さん(2軍外野守備走塁コーチ)が『今年がラストで1年間しか野球できひん、って考えたら、嫌でも練習しちゃう』といったことを言ってもらえたんです。城所さんも(同じような考えで)やっていたらしくて。『確かに』と思って」
昨シーズンの開幕直後に言われた一言で芽生えた「退路を断つ思考」。さらに背中を押したのは、昨年末に実家へ帰省した際の父の言葉だった。「酒が入っていたんですけど、親父に語られましたね。『お前はもっと稼げるチャンスあるんやから、もっと頑張れや』って」。 家族からの愛あるゲキと、コーチの金言。井上は“今年が最後”という言葉を、あえて口に出すようになった。「言霊的に自分でも言うようにしています」。逃げ道を塞ぎ、自身の心を奮い立たせる。
「もちろんこのチームでレギュラーを取りたいです。1軍に上がれない時とかもあると思うんですけど、もうそこを一旦無視して。本当に自分のレベルアップだけを……。今までなかなか上がれない時期とかもあって、その時に『あぁ、しんどいな』みたいな感じが続くこともあったんですけど、そこはもう無しにします」
目先の結果を求めすぎ…小さくなっていた打撃
その覚悟は、プレースタイルへの迷いを断ち切ることにも繋がりつつある。昨季、2軍では打率.276を記録したが、本来の持ち味が消えていた。「『1軍に上がりたい、上がりたい』っていう気持ちで、小さくなっていた部分が結構ありました」。結果を残さないといけないという強迫観念で、自らのスイングができなくなっていた。
打率を残すことは重要だが、それだけでは井上朋也である必要がない。「単打を打たれるよりホームランを打たれたほうがピッチャーは嫌なんで。万波(中正)さんとか、そういうバッターの方が怖いってみんなが言うので。その怖さを消さないようにしていこうって」。
指揮官の構想を“裏切る”ために
小久保裕紀監督は昨シーズン終わりに、今宮健太内野手と柳町達外野手に一塁守備の準備を指示した。井上にとってはライバルが増えることを意味する。それでも表情は崩れない。「そこはしっかり受け止めて、いい意味で裏切れるように頑張りたい」と、冷静に現状を見つめている。
「もう本当に、自分のレベルアップだけを考えて突き通そうと思っています」
いくら結果が出なくても、1軍での出場機会が限られても、やるべきことは何も変わらない。寒空の中で乾いた打球音を響かせるたびに、その決意が深まっていくようだった。背番号43の瞳に迷いは微塵もない。「僕は調整で終わっていい選手じゃない」。自身の技術向上だけを信じて、ひたすらバットを振る井上の姿がそこにはあった。
(飯田航平 / Kohei Iida)