日本Sで首脳陣に直訴していた“幻の3イニング”…杉山一樹が明かす頂上決戦の舞台裏

甲子園で登板する杉山一樹【写真:栗木一考】
甲子園で登板する杉山一樹【写真:栗木一考】

31セーブで初タイトル…日本S第5戦では勝利投手に

「今年こそは、という感じですね」。頂点を手にしながらも、唯一の“心残り”を口にしたのは杉山一樹投手だ。日本一に輝いた2025年は、チームトップの65試合に登板して初のセーブ王を獲得。シーズン途中から託された守護神の役割を全うし、ホークスを救い続けた。そんな右腕が“執念”を明かしたのは、阪神との日本シリーズだった。

 パ・リーグを連覇し、日本ハムと激闘を演じながらもクライマックス・シリーズを突破したホークス。阪神との頂上決戦も1点差ゲームが相次ぐ中、迎えた第5戦。2点を追う8回に柳田悠岐外野手が同点2ランを放ち、試合を振り出しに戻した。杉山がマウンドに上がったのは直後の9回だ。

 わずか6球で3者凡退とすると、延長10回も続投。打者6人をパーフェクトに抑え、野村勇の決勝ソロを呼び込んだ。勝利投手になりながらも、よぎった胸中は「仕方ないかな……」。チームの勝利が最優先だと理解しつつも、杉山は首脳陣に熱く訴えかけていた。

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続きの内容は

幻の3イニングを阻んだ首脳陣の「ある事情」
清宮選手を打ち取った「勝利を確信した一球」
森唯斗氏が語った守護神・杉山「表情の変化」

「僕の中ではマックスで3イニングいくつもりだった」

「2イニングを投げ終えたところで、もう1イニング行かせてくださいと僕から言いました」

 杉山が3イニングを投げたのは先発を務めていた2022年が最後で、中継ぎに本格転向した2024年からは1度もなかった。守護神としてリーグ制覇、CS突破とどちらの瞬間も“胴上げ投手”となった男。自身の力で、チームを頂点に導きたかった。「延長11回は、ランナーが1人出たら僕の打順でしたし。ある程度予想はしていたので、仕方ないかなとは思いますよ」。打順や継投など、さまざまな事情を受け入れて歓喜の瞬間をベンチから喜んだ。

「あの5戦目は、5回から『すぐにいける準備をしてくれ』って言われて、僕の中でもマックスで3イニングいくつもりだったので。『イニングまたぎでも、次の回もいきます』とは言っていたんですけど、(首脳陣から)『打順の巡り合わせで交代』ということになりました。シーズンの途中から胴上げ投手になれたら最高に気持ちいいんだろうなと思ってやってきたので。今年こそは、ですね」

日本ハムとの激闘…清宮へのフォークで「これはいける」

 チームが勝つ瞬間にマウンドにいられる。クローザーだけに許された最大の“特権”だ。日本ハムとのCSは第6戦までもつれ、負ければシーズンが終わるという一戦で9回からマウンドに上がった。「あの時はもう本当に最後だったので。その分、喜びも大きかったですね」。好調だったレイエスと郡司を連続三振。打席に清宮を迎えると、1球目のフォークで空振りを奪った。「初球の空振りを見て『これはいける』と確信しましたね。あの1球は僕の中でも自信になりました」――。

 結果的に、2球目もフォークを選択して左飛に打ち取った。雄叫びを上げながら海野隆司捕手と抱き合ったのは、背番号40にとっても記憶に新しい。「今年は節目節目で投げられたので、嬉しさはめちゃくちゃあります」。1点差、負ければ全てが終わる――。極限の重圧は、右腕を大きく成長させたに違いない。

 ホークスのクローザーとして通算127セーブを挙げた森唯斗氏は、背番号40の姿に「(抑えになってから)表情が変わりましたよね。あんなガッツポーズを見たことがなかったし、自然と出るのはすごくいいことだと思います」と唸っていた。今季6月から守護神を務めると、経験を積むにつれて「僕がやりたいです」と首脳陣に直訴。何度も味わった“勝利の味”は、もう誰にも手渡すつもりはない。

「僕も森さんの背中を見て、マウンドの立ち振る舞いだとか、あれだけ気持ちを出して投げる人はどんなことを考えているのか、すごく気になっていました。いざ自分がそのポジションになると、あそこで終われる達成感は全然違います。同点だとか、負けてもいいっていうのは僕の中ではないので」

 チームの勝利を背負い、重圧すら楽しめるようになった。かつての弱気な姿はもうどこにもない。日本一の瞬間、今度は必ず自分がマウンドに立っていたい。

(竹村岳 / Gaku Takemura)