「あいつがいなかったら今の僕はいない」
鷹フルがお届けする森唯斗投手の単独インタビュー。全5回の第3回は今宮健太内野手の存在について語りました。常に自分を支えてくれた存在。汗だくだった初対面から、現役引退まで――。濃密な12年間を振り返ってもらいました。ユニホームを脱ぐ決意を知らせた出来事。胸を打たれたのは、親友がくれた労いの言葉でした。
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1991年7月生まれの今宮と、1992年1月生まれの森。同学年としてお互いを高め合ってきた。「あいつがいなかったら今の僕はいないです。それくらい感謝しているし、気を遣わなくてもいい存在ですね」。右腕はルーキーイヤーだった2014年から58試合に登板。すでにレギュラーを掴んでいた背番号6も全144試合に出場するなど、1軍の勝敗を背負いながらともに戦ってきた。
DeNA2年目のシーズンだった今季、わずか2試合登板にとどまった。9月中旬には球団に来季の戦力構想から外れていることを告げられた。「だいたい予想はついていました。僕の中で“次”はないと決めていたし、『ベイスターズ(での契約)がなくなったらそこで……』とけじめをつけようと思っていました」。ユニホームを脱ぐなら横浜だと、決心はついていた。12年間の現役生活を終える――。盟友である今宮には、どんなふうに知らせたのか。
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続きの内容は
今宮が森に送った「今でも泣きそう」なメッセージの舞台裏
汗だくの初対面…森が明かす今宮との「絆の原点」
「来年は勝負」森が親友に送る温かなメッセージ
現役引退を電話で報告…今宮も「納得してくれた」
「球団と話をしてから、健太にも割と早めに言いましたよ。まずは家族に言って、攝津(正)さんに言いました。その後くらいだったと思います。彼も最初は電話に出なくて、かけ直してもらったんですけど。『こうだから』っていうふうに言ったら『だろうな』って言っていました」
シーズン終盤は、来季に向けた戦力整備を始める時期でもある。普段から頻繁に連絡を取るわけではない。「9月の電話」という時点で、今宮も察していたようだ。「時期も時期でしたし、“そういう電話”と彼も気づいていたみたい。僕もね、それなりに(長く現役を)できた方だと思うので。『悔いがないならいいんじゃないか』と納得してくれました」。通算486試合に登板し、何度も日本一を経験した。“それなり”どころか、輝かしいキャリアの最後を今宮に伝えた瞬間だった。
9月30日、横浜スタジアムで引退セレモニーが行われた。スポットライトを浴びて、森がマウンドに立つ。バックスクリーンに流れた映像では、DeNAの同僚から次々と惜別の言葉を送られた。そんな中、今宮も“サプライズ”で登場。「今でも泣きそうになるくらい寂しいですけど、こういう世界ですから。唯斗が決めたことなので。僕も納得しています」。ビジョンに映る今宮は、必死に笑顔を作っていた。現役生活を戦い抜いた33歳の右腕も「嬉しかったですし、これからは僕が応援する番です」とバトンを託した。
2014年2月の春季キャンプ…汗だくになって挨拶回り
今宮は大分・明豊高時代に甲子園で活躍。世代の中心選手として、ホークスからドラフト1位指名を受けた。「僕らの代で、スーパースターは彼ですよ」。4年後の2013年、今度は森がプロの世界へ。どのようにして、2人の絆は深まっていったのか。ルーキーイヤーの春、汗だくになった日々が懐かしい。
「僕は春のキャンプで3日目くらいにA組に上がったんですよ。人見知りだったんですけど、ホテルで全員の部屋に挨拶しに行ったんです。健太とはそこから始まったような気がしますね」
2014年2月、ドラフト2位ルーキーとして春季キャンプを迎えた森はB組スタート。第1クール4日目にA組合流を果たすと、いきなりブルペンに入るなどしてアピールした。2軍から1軍のチーム宿舎に移ると、1部屋ずつ先輩の部屋をノックして回った。「汗だくだった記憶があるんですよね」。律儀な男は思わず苦笑いを浮かべた。後に親友となる今宮との初対面は、宮崎のホテルだった。高卒入団だった背番号6にとって、同学年の選手が増えたことは嬉しかったはず。意気投合するのに、時間はかからなかった。
当時、若鷹の寮は西戸崎にあった。「キャンプが終わって寮にいるときは、寝るまでどっちかの部屋にいましたね。何を話すわけでもないんです。ただいるだけなんですけど、僕としては気が楽になりましたよね。もう本当にずっと一緒にいましたから」。記憶に刻まれているのは、何気ない日々。新人だった森にとって、今宮との関係性はまさに“友人”そのものだった。
2024年にDeNAへ移籍すると、6月7日に初対戦が実現した。森自身は5失点で敗戦投手となったが、今宮は三ゴロ、遊ゴロと無安打に抑えた。「まさか対戦できると思っていなかったので、特別なものがありました。引退するまでに対戦できたのは一番よかったですね」。今宮は12月6日に契約更改を終えて、単年契約で2026年に挑む。苦楽をともにした親友は「健太も下の突き上げは感じていると思う。来年は勝負だと思うし、このまま終わらず、ぜひやってもらいたいのが一番です」。心から、熱いエールを送った。
(竹村岳 / Gaku Takemura)