悪夢の日本S4連敗 森唯斗が見抜いた“隙”…ホークスの練習中に覚えた違和感「ん?」

2024年、ホークスとのファーム選手権を制して胴上げ投手となった森唯斗【写真:竹村岳】
2024年、ホークスとのファーム選手権を制して胴上げ投手となった森唯斗【写真:竹村岳】

連勝からの4連敗…2024年の日本シリーズの裏側

 鷹フルがお送りする森唯斗投手の単独インタビュー。全5回の第2回目、テーマは「2024年の日本シリーズ」です。ホークスが喫したまさかの4連敗。その裏側に見えた小さな“綻び”。右腕にとっては“古巣”との頂上決戦で、大逆転のかすかな兆しを感じた瞬間がありました。「閃きましたね」――。

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 2023年、森にとってはホークスでの4年契約最終年だった。「勝負の年」と位置付けたが、結果的には6試合の登板にとどまった。それでも、右腕にとってはかけがえのないものを得た1年間だった。ファーム生活が長かった中、モチベーションは「小久保さんを男にしたい」――。2軍で指揮を執っていた小久保裕紀監督を胴上げするために、心血を注いだ。巨人とのファーム選手権でも先発で登板し、生き様を背中で見せた森の姿はまさに「最高のお手本」だった。

 オフに構想外通告を受け、DeNAに移籍。2024年シーズンは14試合に登板すると、日本シリーズでは「40人枠」に選出された。第1戦からホークスは連勝発進したが、そこから悪夢の4連敗。森が口にしたのは、古巣に感じた小さな“隙”だった。

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続きの内容は

連勝中の古巣に見た小さな「綻び」とは
小久保ホークスを「倒したい」…“恩返し”の真意
後輩たちに託す「僕よりも長くやれる」への熱い思い

「3戦目、練習風景を見ていて『ん?』と思ったんですよ」

「最初の2試合はベイスターズが負けたじゃないですか。そこから福岡に移動して、3戦目の朝。僕は早めに球場に行ったんですけど、練習風景とかを見ていて『ん?』と思いました。これはもしかしたら、1回勝ったらガラッと変わるぞ、と。ホークスから違う雰囲気を感じたので。そこから4連勝できて、『ほら見ろ』と思いましたね」

 10年間、常勝軍団に身を置き、6度の日本一を経験。具体的に明かすことはなかったが、森だからこそわかるわずかな変化だったのは確かだ。その“真意”を理解できる近しい人間にだけ、小さく囁いた。「まず1個取ろう。1個勝てたら絶対に変わるから」――。

 森がホークスで頂上決戦を経験したのは計6回。その全てで日本一に輝いた。2018年からは、3年にまたがって日本シリーズ12連勝を果たすなど、短期決戦で無類の強さを誇っていたホークス。古巣に対して抱いた違和感の正体。「僕らの時はなかったんじゃないかなと思いますよ」と胸を張った。このシリーズで森自身の登板はなく「誰よりも投げたいと思っていましたからね。もちろん悔しかったですよ」。個人的な思いを口にしつつも、その感覚が間違いではなかったことも確かだ。

「日本シリーズはやっぱり1戦目、2戦目を取った方が有利じゃないですか。本当にあの時(2024年)はちょっと閃きましたね。『これは変わるぞ』と」

2024年のファーム選手権に登板した森唯斗【写真:竹村岳】
2024年のファーム選手権に登板した森唯斗【写真:竹村岳】

貫き続けた“兄貴肌”「みんな僕よりも長くやれる」

 ホークスと戦った2024年の日本シリーズ。その3週間前、森はすでに頂点をかけて古巣と激突していた。10月5日、ひなたサンマリンスタジアム宮崎で行われたファーム選手権。9回に登板した右腕が試合を締め、胴上げ投手となった。ファームという舞台ではあるが、後輩の笑顔を見て純粋な喜びが込み上げてきた。

「僕は、やるからにはどんな時も勝ちたいです。あの時のベイスターズは、ファームにしてもめちゃくちゃ雰囲気がよかったので。1軍2軍は関係なく、みんながそういうふうに思わないと、チームって強くならないんですよ。シーズンの後半からすごく士気が上がり始めて、同じ方向を向いていた。ああいう経験ができたのはよかったし、ファーム(の優勝)に価値はないとか、そんなこと全然ないですよ」

 ホークスにいた時から、誰よりも後輩の面倒見がよかった右腕。「みんなからそう言ってもらえますけど、僕が決めることではない」と照れ笑いする。常に胸にあるのは、プロ野球選手として成長してほしいという思いだ。「もったいないなって思ったら、言ってあげたいじゃないですか。『もうちょっとこうしたら?』って。みんなこれから僕よりも長く現役をやれるはずだと思っているので」。目尻を下げながら、優しい笑顔で送るエールだった。

 相手ベンチから眺めたホークスの姿。小久保監督の存在は、今も胸に刻まれている。「移籍してから見ていても、やっぱりすごいなと思うわけですよ。だから、逆にそれを倒したいという気持ちでしたね。必死になればお互いにいいものが見せられると思うし、勝つことが恩返しだと思ってやっていました」。12年間を戦い抜いた森を、指揮官もきっと労ってくれるはずだ。

(竹村岳 / Gaku Takemura)