3日に契約更改交渉…500万円ダウンという結果に胸中は?
「今年は、もう“負けた1年”なので」
強烈な表現で今シーズンを振り返った。3日、みずほPayPayドームで契約更改交渉に臨んだ正木智也外野手は、500万円ダウンの年俸2500万円(金額は推定)で来季の契約にサインした。「今年の目標は開幕スタメンを取って、そのまま1軍にい続けることだったので。怪我をしてしまったのは予想外でしたし、悔しいシーズンになったと思います」。自分の居場所を取り戻す――。その決意は、秋季練習の“自立”した姿から強く伝わってきた。
今年4月18日の西武戦で左肩を亜脱臼した。「バンカート修復術」を受け、全治5~6か月と診断されると、長期のリハビリ生活に突入。10月のクライマックスシリーズで1軍復帰を果たしたが、わずか1安打に終わった。日本シリーズでも2打数無安打と快音は聞かれず、爪痕を残せなかった。昨季は7本塁打を放った背番号31だが、「もっと突き抜けないと、レギュラーは取れないですね」。あらためてホークスの厚い選手層を痛感した1年でもあった。
球団との契約更改交渉は午前11時にスタートし、正木が会見場に姿を見せたのはわずか15分後だった。500万円ダウンという結果を真っすぐに受け止めて、10分ほどで終了した球団とのやり取り。そこに、来季にかける思いがにじみ出ていた。
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続きの内容は
正木が語った来季へ向けた「同期への思い」
秋季練習で見せた「自立」の意外な行動
激しい競争を勝ち抜くための「正木の長所」
下交渉から提示金額は変わらず…迷わずサインした理由
「もともと500万くらいダウンかなと思っていましたし、下交渉の時に言われた額のままでしたね。(サインをすると)決めていたので。今年は20試合も出ていない(レギュラーシーズンは17試合出場)ですし、シーズンもほぼ1軍にいなかった。気持ちの切り替えとしてそこは受け入れて、スパッと来年に向かおうと。交渉する材料もなかったですし、『その分来年は頑張ります』と伝えました」
選手には本交渉の前に、球団から来季に向けたおおよその年俸が提示される。それは「下交渉」と呼ばれ、ある程度の着地点が見えた段階でオフィシャルな場が用意されるという流れだ。正木にとって下交渉の時点から500万円ダウンという提示だったが「悔しいですけど、そういう思いをした分だけ頑張れると思うので。前向きに捉えてやるしかないと思っています」。自らの現在地を理解しつつ、凛とした表情で決意を新たにした。
「今年はいろんな人に“負けた1年”だったので。もう同じ思いはしたくないですね」
慶大の先輩である柳町達外野手は、最高出塁率のタイトルを獲得した。同期入団の野村勇内野手は12本塁打とブレークするなど、日本一に輝いた1軍では新しいスターが生まれつつある。そんな結果を、正木はプロとして「負けた」と受け止めた。来季は5年目のシーズン。「もう若手じゃないし、同期もどんどんいなくなっていく。厳しい世界であることはわかっているので、自覚を持っていきたいです」と熱く続けた。
秋季練習で見せた“自立”「意識してやっていた」
これまで以上に強い決意は、行動の1つ1つにも表れている。11月14日までタマスタ筑後で行われた秋季練習。集合を終えてウオーミングアップが始まると、同僚と言葉を交わすことなく、黙々と準備を進める正木の動きが印象的だった。「意図的ではないですよ」というが、「個人の時間が多かったので。やりたいことを、しっかりと自分で毎日やること。それをアップから意識してやろうとは思っていました」。周囲との距離感を自然と取っていたのは、1人の選手として明らかに“自立”した姿でもあった。
練習が始まった後も、意思は伝わってきた。打撃練習を終えれば、すぐにファーストミットを手に取る。メニューの合間に息をつくこともなく、テキパキと次の練習に向かう姿が印象的だった。「このキャンプでは、こういう方向性でやるというのは自分の中でも決めていました。『何やろうかな』っていうのをその日考えないというのはもちろん、打撃面でも同じことを継続できたので」。表情から充実感が溢れる。自分自身の武器を生かして、激しい競争に挑んでいくつもりだ。
「1軍の試合を見ていても、普通にやっているだけでは勝てないなと思いました。人一倍やらないと勝っていけないですし。ただやるだけじゃなくて、考えて練習するのは僕の持ち味というか、長所だとも思うので。練習を1つやるにしても目的とか理屈までしっかり考えるのが、僕のやるべきこと。そういったところから意識してやっていけたらと思います」
昨年に引き続き、自主トレはタマスタ筑後を中心に行う予定。味わった悔しさは、もう1度高く飛ぶための糧となる。「負けた1年」が、必ず正木を強くする。
(竹村岳 / Gaku Takemura)