1億円ダウンでサイン…「振り返りたくないくらい悔しい」
遊撃手であることに、誰よりもこだわりとプライドを抱いてきた。指揮官から通達された“コンバート”。プロ17年目となる来季、ついに「そういう時」が来たと受け止めた。今宮健太内野手が6日、みずほPayPayドームで契約更改交渉に臨んだ。1億円ダウンの2億円(金額は推定)、単年契約でサインした。
チームが5年ぶりの日本一に輝いた今シーズンは46試合に出場して打率.255、2本塁打、12打点。プロ野球史上初となる「100本塁打&400犠打」を達成したが、3度の登録抹消を経験するなど怪我に泣いた1年だった。「年間を通してチームのために何もできなかった。(1億円ダウンの提示は)当然ですし、振り返りたくないくらい悔しかったです」。来年2月の春季キャンプではS組スタートとなる。チームに合流する2月中旬までは、宮崎ではなく独自の調整を行う予定だ。
阪神との日本シリーズを終えた後、小久保裕紀監督と言葉を交わす機会があった。告げられたのは、内野全てのポジションを守れるように準備すること。2011年に一塁守備に就いた経験はあるものの、その後の14年間は遊撃だけを守り続けてきた。ゴールデン・グラブ賞を5度も獲得した名手は、この通達をどのように受け止めたのか。“チームのため”という思い、そしてショートに対するプライド――。胸中を赤裸々に打ち明けた。
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続きの内容は
・2022年に「意地でも」固辞したコンバートを今回受け入れた、胸中の変化とは
・坂本・宮本両レジェンドとの比較で明かす「需要はない」発言の真意
・FA権を持ちながら「終わるならここ」と断言した揺るぎない覚悟
2022年はコンバートを固辞「あの時は意地でも」
「監督から言われた時には、実はそのちょっと前から話があったので。正直、(気持ちの)準備はしていました。ショート1本で勝負していきたい思いはまだあったんですけど、そろそろ“そういう時”なのかなと。チームのこととか戦術的なことを考えれば、いろんなポジションを守った方がその他のパターンができますので。そこはチームのためになるのかなとは思っているんですけど」
過去にもコンバートの可能性はあった。2022年、米大リーグで通算109本塁打を放ったフレディ・ガルビス内野手が加入した時、当時の藤本博史監督は今宮に三塁挑戦のプランを打診。明確な意思と自信を胸に、首を横に振った。「あの時は意地でも、誰に何を言われようが必ずショート1本という思いでしたね」。同年はキャリアハイとなる打率.296を記録。自分の“城”を守り切り、ベストナインも獲得したのは記憶に新しい。
あれから3年の月日が流れた。野手では柳田悠岐外野手、中村晃外野手に続く年長者。来年7月に35歳を迎えるチームリーダーは、今回のコンバートを「そういう時」と表現して受け入れた。守備力の高さは誰もが認めるところだが、本人は「そんな甘くないです」とキッパリ。「中学、高校からショートというポジションしか守ってきていない。ファーストもプロに入った時に数試合は出ましたけど。セカンドは守ったことすらなかったので。しっかり練習しないといけないと思っています」。当然、油断の2文字はどこにもない。
「ショートを守れなくなったらスタメンで出ることはない」
通算1412安打を誇る背番号6に新たなオプションが加われば、チームの幅も広がる。今宮の打力を生かしたいという首脳陣の思いが表れたコンバートでもあるはずだ。自らの存在価値を「守れなければ需要はない」と言い続けてきた34歳。岐路に立たされたこのタイミングで、その言葉の真意を打ち明けた。例に出したのは、2人のレジェンドだ。
「例に出すなら坂本(勇人)さんや、宮本(慎也)さんは、打つ方に関してやっぱりトップレベルだった。他のポジションに行ってもその力を利用する形を取れたとは思いますけど。僕に関してはそれはないなって思ったんで、だから『需要はない』と言いましたし、ショートを守れなくなったら、スタメンで試合に出ることないんだろうなと思っていたので。それはまあ、本心でしたね」
2000安打を達成し、球史に名を刻んだ2人の遊撃手も30代中盤でコンバートを余儀なくされた。それでもチームに必要とされ続けたのは、使いたいと思わせる打力があったからだ。「そのお二人も、ショートであることには相当なこだわりがあったと思いますよ」。同じ立場となったからこそ、気持ちがわかる。「来年ショートを守らなくなったわけではないし、基本線はそこで勝負していこうと思っていますよ」と言い聞かせるように口にした。
小久保監督からも伝えられた「勇と勝負」
遊撃を争ううえで、最大のライバルは野村勇内野手だ。今季12本塁打&18盗塁と持ち前の身体能力を生かしてキャリアハイを記録した。小久保監督も今宮に「勇と勝負」とハッキリ伝えたという。「彼にはパンチ力があって、足も速くて肩も強い。簡単には勝てるわけないなと思っています」と今宮。そして「もちろん『(ポジションを)どうぞ』と言うわけない。彼との競争に勝てれば、また選手としての寿命は伸びるかなと思います」と意気込んだ。
今宮はFA権を保有している。2022年オフに結んだ複数年契約が切れたこのタイミングで、移籍の選択肢はなかったのかと問われると、きっぱりと否定した。「ここまで長くやれると思っていなかった中で、面倒を見ていただいたのはこのチームなので。最後までここでやりたいし、終わるならここじゃないですか。それは間違いないです」。キャリアの岐路で、どんな“生き様”を描くのか――。2026年、勝負のシーズンだ。
(竹村岳 / Gaku Takemura)